鷲尾レポート

  • 2021.09.23

バイデン政権の、今そこにある危機

バイデン政権の、今そこにある危機

関西学院大学フェロー

鷲尾友春

 

バイデン政権が、発足後8か月にして、最大の難所を迎えようとしている。例えば、アフガニスタンでは、政府が予想以上の速さで崩壊した。新型のデルタ型ウイルスの登場でコロナ終息のイメージも描きにくくなってきた。更に、鳴り物入りで売り込んでいる総額1兆ドルのインフラ投資法案と総額3兆5千億ドルの各種社会政策を含んだ予算決議案(いずれも上院では採択済み)、この2本の行方も、8月23日から始まる週での、下院審議が山場となる。

 

バイデン大統領は昨年末の選挙で、「自分の周りには、コロナ禍を乗り切るだけの能力あるチームがいるし、また自分には、50年にわたってワシントンで各種政治交渉に携わってきた実績がある。分断社会に団結をもたらすことができるのは自分だけだ」とアピールしてきた。その謡い文句と能力が、今、実際に問われる場面が出現しているのだ。

 

事例を、一つ一つ吟味して行こう。先ずアフガン情勢だが、アフガニスタンからの撤退そのものは、米国では大きな支持がある。だが問題は、撤退に際しての情報不足、政府各部門間の調整不足、従って準備不足、つまりは己が誇っていたチームの能力不足が、今回の事態急変で白日の下にさらされることとなってしまった。大統領自身、数週間前に何と言っていたか…。「タリバンがアフガニスタン全体を支配するようなことは当面あり得ないし、同国の米国大使館の屋根にアフガニスタンの人々が這い上がり、助けを求めるようなことは起こりえない云々」。それが実際に起こっている。

 

コロナ禍についても、同じようなアピールと現実のギャップが明白になりつつある。7月4日の独立記念日までに、ワクチンを1回でも打った人の割合を全国民の7割にする、との大統領の目標は、僅かの差で実現しなかった。カイザー家族財団の調査によると、2021年6月段階で、ワクチンを既に打ったが65%、直ぐに打つが3%。対して、義務化されれば打つ(=義務化されなければ打たない)が6%、様子見が10%、打たないが14%となった。“打たない”、“義務化されなければ打たない“”、“様子見”の合計が未だ30%もおり、その大半が共和党支持層の多い田舎に在住している。この30%に接種を下手に強制すると、来年の中間選挙では…。

一方、直近の報道によると、ワクチンを打っていても5人に1人は、やはりデルタ型には罹ったという(重症には余りならないが…)。そのため、米政府は、ファイザー製、モデナ製のワクチンを2回打った人にも、2回目から8か月後に、3回目のワクチンを打つことを勧める方針を公表した。要するに、バイデン大統領にとって、ワクチンハネムーンは終わり、今後は対処が一層難しい局面に入ったということだろう。

 

最後は、2本の予算案の扱い方だ。周知のように、総額4兆ドルにも達するバイデン予算案を議会で通すため、大統領自身が戦略を練り、超党派で成立を期す部分と民主党単独で成立を期す部分(予算決議の形に落とし込む)に分割、結果、その2本の議会採択を目指し、ホワイトハウスや民主党幹部は、対共和党や民主党内部での工作に余念がなかった。その効あって、難航を予想された上院で、8月9日、総額1兆ドルのインフラ整備法案を超党派(16名の共和党上院議員が賛成)で採択させることに先ず成功、その余波を駆って8月10日早朝、総額3兆5千億ドルの、富裕層への増税を含む、社会政策を軸とする予算決議案をも、これは民主党単独だが、併せて採択させるに至り、局面は下院に移った。

だが、ここからも、大統領は、民主党内部の不調和音に悩まされ続けている。下院の民主党優位は僅か3票。そんな中で、8月13日、9名の民主党下院議員が同党の指導者ペロシ下院議長に書簡を送り、1兆ドルのインフラ整備法案を先ず下院で可決し、それに大統領が署名しない限り、自分たちは3兆5千億ドルの社会福祉関連の予算決議案には投票しないと伝えたのだ。一方、下院民主党内リベラル派は、全く逆の主張をする。曰く「先ず社会福祉関連決議案を採択しなければ、自分たちはインフラ整備法案には投票しない…」。

9名の議員たちはいずれも、共和党支持者の多い選挙区選出、ここでは共和党内でも支持のあるインフラ整備法案を先ず優先成立させることが、彼らの選挙基盤を固めることに役立つのだ。そんな中、下院民主党のペロシ議長は、インフラ投資法案と予算決議をパッケージにすると述べ、何とか党内の団結を維持しようと努力している。もし、下院民主党が党内団結を保持できなければ…。

さらにまた、仮に上記予算決議が大統領の意図通りに採択されたとしても、当の予算決議なるものは、9月から始まる来年度予算の総枠を設定するだけのもので、次の段階は、其々の行政部局を担当する、両院各委員会の個別予算審議に移行する。そして、そこでもまた、民主・共和両党の攻防が延々と続くだろう。来年の中間選挙への配慮や考慮が、色々なところで顔を出してくるのだから…。そんな中、各種世論調査の平均値で見た、直近のバイデン大統領への支持率が、50%を始めて割った。

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