鷲尾レポート

  • 2021.11.27

米中の関係硬化と日本の対応ぶりへの不安

米中の関係硬化と日本の対応ぶりへの不安
2021年11月27日
関西学院大学フェロー
鷲尾友春

米中間の対立硬化が緩和の兆しを見せない。
本年初頭、バイデン政権と周政権が、初めて遭遇したアラスカの会議では、両者は、マスコミの前で、前代未聞の激論劇を演じて見せた。あれから10か月後、米国時間11月16日に実施されたバイデン・周のオンライン首脳会談でも、冒頭の融和ムード演出と裏腹に、台湾や人権など双方が譲れない一線をぶつけ合う形で終わった。直後、NY TIMESは「協力関係を誓約しあったが、主だったブレイクスルーはなかった」と報じ、日本経済新聞も「米中、緊張緩和探るも溝」と記載した。

しかし、物事には常に表裏二通りの解釈が成り立つもの。昔読んだ司馬遼太郎の「関ヶ原」の末尾に、こんな件があった。合戦で勝利した家康が、西軍調略に大功あった黒田長政の片手を、己が両手で握りしめ、「戦勝は偏に黒田殿のお陰」、と大げさに感謝して見せた。それを喜んだ長政が父の如水に報告した際、如水が倅に「その時、お前の空いていた手はどこにあった」と質問する場面である。若かった筆者は、反骨者如水が、長政に「お前の片手は、腰の脇差の上にあったのだろうな」と苦言を呈したと解したが、歳取った今の筆者は、「天下人になろうとする家康に疑念を起こさせないために、家康に倣って、お前も両手で家康の両手を握り返すべきだった」と諭したと解している。

米中間で、硬質な会議が続いたといっても、その実態を見返せば、前者では直後8時間も非公開の会議が続き、首脳会談では、それが3時間半も続いたと聞くと、受ける印象も違ってくる。それだけの長時間、恐らくは両者は、ありとあらゆる問題を遡上に挙げ、お互いが内々に設定しているレッドラインが、奈辺にあるか弄り合ったのだろうと…。とすれば、今回の首脳会議も、その目的は、何らかの肯定的成果を得ることにあったのではなく、むしろ最低限の衝突回避策が何処にあるかを模索し合ったのだと…。

米国も中国も、似たところがある。それは物事を前に、徹底して議論を尽くす性質である。米国建国の歴史を概観しても、憲法制定時、それこそありとあらゆる場面を想定して、“建国の父たち”は規定を取りまとめている。三権分立、人事、上院と下院の役割分担、大統領が欠けた場合の規定等々。恐らく中国でも、社会のエリートたちは、そんな議論の習慣に慣れ親しんでいるはずだ。要するに彼らは、物事を徹底する。だからこそ、米中の高官たちの長時間の議論が、何よりも意味を持つ…。

だからと言って、こうした長時間の議論から、米中それぞれが導き出す結論が同じだとは限らない。米国側にとっては、コロナ禍故としているが、この間、習主席が長期外遊していない理由を、国を空けることに不安を抱いているからだ、と解するかもしれない。3選を目指し、自ら毛沢東に比する立場に立とうとする主席にとって、党内での抵抗は当然強いはずだし、そう解すれば、その目指す立場を確保するまでは、対外軋轢も出来るだけ避けようとするだろう。だとすると、例えば台湾を巡って、態度を硬化させているかに見える中国が、何故、中台が嘗て融和路線の下で締結した経済協力枠組み協定を未だ維持しているのか(破棄すれば台湾経済にとっては大打撃となるはず)…、何となくわかる気がするではないか…。そういえば、「米中対立の真の危機が来るのは、2024年、台湾の蔡総統が任期切れを迎え、その後継に、中国と距離を置く、与党民進党の頼現副総統が指名された時だ」と、米国ランド研究所の研究員が解説しているのも、それなりに説得力を持ってくる。

同じ様なシナリオを、米国のバイデン大統領に即して描くことも可能になるだろう。アフガニスタン撤退でミソをつけて以来、大統領の支持率は低下を辿り、直近では40%そこそこ。看板としてきたインフラ整備法案を成立させたものの規模は半減、亦、社会福祉法案も(恐らくは最終的には成立させるだろうが)迷走、この間、民主党内の対立はかえって激化、来年の中間選挙では、下院民主党が多数を失う可能性も増している。だとすれば、少なくとも本年中は内政に集中(コロナ、予算等々)、本格的外交は来年央以降、そんなシナリオをも成り立つではないか…。もっとも、バイデン側の一方的シナリオ創出を許してくれないのも米国政治の過酷な処。議会では民主・共和両党からの対中強硬姿勢が伝わってくる。来年の北京オリンピック・ボイコット圧力である。そんな場面だからこそ、中国の、政府の元副首相と関係を持ったとされる、女子テニス選手が姿を見せなくなった影響も大きくなる道理。更に、議会では、対中強硬法案(US Innovation and Competition Act)が民主党内でほぼ纏まったとされ、バイデン大統領の対中強硬姿勢をさらに縛る結果、となりそうな雲行き。

いずれにせよ、米中両国内の指導者を巡る環境は厳しく、両者とも、あたかもタイトロープの上を歩くが如き、国内政局運営を余儀なくされている。翻って、日本の政治はどうだろうか…。

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