鷲尾レポート

  • 2021.06.01

半数賛成、半数反対の、米国議会分断の現状に関する一考察

2021年6月のご挨拶

2021年6月1日

鷲尾友春

 

思えば長い戦いでした。小生のような65歳以上の年寄りには、優先的にコロナのワクチンを打ってもらえるとのこと。神奈川県鎌倉市の場合、65歳以上は5月17日から受付開始。先ずは打ってもらえることが先決と、準備万端怠りなく、奥さんの分は息子に手続きを依頼、小生は、まるで戦場に臨む雑兵の如く、準備万端、自分の分を申し込むべく、手許のパソコンを立ち上げて用意していました。

午前0時になったので、急いで画面を開き、0時5分には申し込みサイトに辿り着いたところ、既に予約で満杯。システムが休止し、再開は、当日の午前9時から、と連絡されました。

約8時間後、今度こそ遅れてはならじと、午前8時55分からスタンバイして、再挑戦。9時2分に画面に辿り着いたところ、既に小生分の予約は登録完了との表示が…。どうして…、といぶかしがっていると、息子から電話で「父ちゃんの分、とれたぜ」という声。息子曰く、自分と嫁さんと子供用のスマホ計3台と、自分のパソコンを最大活用して、先ずは我が家内の、次いで午前9時からは小生の予約を確保してくれたらしい。スマホやパソコンをフルに使いこなしてのチャレンジだったようです。

でも思いました、小生のような老夫婦の、典型的なデジタル・デバイドにとって、何と住みにくい世の中になったモノかと…。

でも、息子のお陰で、我らは、期間中にワクチンを打ってもらえるようになり、先週、先ずは小生がワクチンの第一回目を打ってもらいました。お医者さんたちに聞くと、2回目は結構熱が出るらしく、2回目を打った後2~3日は、スケジュールを入れるなと言うご忠告。そんなことをいわれても、この歳で、身体中悪い処だらけの小生には、なんとも対応しがたい話しですが…。コロナ渦中、小生、正直、パソコンが大嫌いになってしまいました。もっと言えば、人生の後半期で自分に適応の応力がなくなっているときに、何故こんな激変が…、といった処でしょうか。

ところで、今回は、米国議会共和党の話を書いてみました。ご笑覧いただけると幸甚です。

 

半数賛成、半数反対の、米国議会分断の現状に関する一考察

2021年6月1日

関西学院大学フェロー

鷲尾友春

 

米国議会上院は5月28日、先に民主党主導の下院が採択していた、「1月6日に発生した、暴徒の連邦議会乱入事件を調査するための独立委員会設置案」を否決した。賛成が54票、反対が35票だった。賛成が54票で過半数を超えているのに、何故、否決…。これには、少し説明がいるかもしれない。

上院は、米国の場合、各州代表の性格が与えられている(下院は人民代表)。その成り立ちから、米国憲法は、政府の依って立つ、各州の利害と、人民の利害との調整に、格段の意を払ってきた。その利害調整の一環として、上院だけに認められているのがフィルバスターという制度。そのエッセンスは、本会議場で一度発言機会を与えられた上院議員は、自らがその発言権を譲り渡さない限り、発言を無制限に続け続けられるというもの。州代表の上院議員の発言の重みを、そんなシステムで具現化したのだ。米国映画の古典的名作とも評されるMr. Smith Goes to Washingtonは、田舎出の新米上院議員が、この制度を使って、たった一人で、地元ボスの企んだ利権絡みのプロジェクトの連邦議会採択を潰す話しだった。しかし、たった一人の反乱が、上院の機能を停止させる、その制度の弊害が今、賛成半分、反対半分に分裂した米国政治の基盤を揺るがしている。

もっとも、この弊害を少なくしようとの努力も、遅々としたテンポながら進んできた。

100名の上院議員の内、60名が賛成する動議が可決されれば、当該のフィルンバスターを停止させることが出来る(従って、今回も、上院共和党から10名の賛成者が出ると、フィルバスターを行えなくなるはずだったが、実際に賛成に回ったのは6名だけだった)。

或いは、上院の特権とされる政府幹部の承認や裁判官の任命に関しては、フィルバスターの対象外とする。更には、予算案作成に関しては、議会運営手続き面での合意が出来れば、フィルバスターを適用しない等など(この4月に議会が可決した、バイデン大統領の1・9兆ドルのコロナ禍対策予算は、この後者の手続きに従って、民主党が単純過半数で押し切ったものだった)。

暴徒の連邦議会乱入事件に関しては、事件発生直後、議会共和党指導部も、民主党に同調して、その無法を非難していた。ところがその後、風向きが変わる。この新設の独立委員会での議論が、必然的に、デモ隊暴徒化にトランプ前大統領がどのような役割を果たしたかに及ぶことになり、それがトランプの岩盤支持層を、そのような独立委員会の設置を認めた共和党への批判票に変質させると案じたためである。

それでも28日の上院での否決の前週までは(つまり、下院が委員会設置を採択する前までは)、上院共和党指導部は本案への是非を明らかにしていなかった。それが何故、一転、反対の態度を鮮明にするに至ったのか…。私見では、恐らく、本音では反対を決めておきながら、表面上では、下院内で共和党から、どの程度の賛成票が出るか、注意深くも見守っていたのだろう(下院共和党からの賛成票は35票だった)。

ここで、付記しておくべきは、この下院での採決(5月19日)に先だって、下院共和党指導部から、保守派でトランプ批判を続けていたリズ・チェイニー女史(下院共和党のナンバー3、ブッシュ政権下のチェイニー副大統領の娘)が追放されている事実だろう。非公開での追放審議時間は僅か10数分、評決もとらず、発声投票で事を決める、極めて強引な追放劇だった。

トランプ批判を止めない、チェイニー議員を指導部から追放せよとの声は、本年初頭からあったが、最初の試みは失敗している。あの時は、下院共和党指導部はこぞってチェイニー女史を支持していた。ところが今回は、指導部の態度は全く違った。

そこには、「ここら辺りで、党のために、トランプ批判を止めておけ」との周辺の忠告を聞かなかった、チェイニー議員の性格なども影響しただろう。結果は、共和党指導部は、保守派を追い出して、ニューヨーク州選出の穏健リベラル派エリーゼ・ステファニック女史を執行部に導き入れることになった(チェイニーを追放してしまえば、共和党指導部に女性がいなくなるとの政治的判断や、保守派とリベラル派を入れ替えるなどの配慮は、これも一種の妥協だろうが…)。

一方、トランプ前大統領は、2020年選挙が盗まれたと、依然主張し続けている。2020年選挙では、本来なら投票場に出向かず、棄権に回ったはずの有権者の多くが、コロナ禍での疫病拡散防止を名目に、いとも簡単に郵便投票ができるように投票規則が大幅に緩和され、それが、身分証明が不十分なままでの投票、或いは、あまりにも簡便な投票許容に結びつき、そのため、選挙結果がいびつになったと考えているのだ。

他方、来る2022年の中間選挙では、折からの、10年の一度の連邦下院の選挙区調整(人口センサス毎に、各州割り当ての連邦下院議員の数が調整される)と相俟って、与党民主党が議席を減らすとの予想が一般的で、それ故にこそ、議会多数派奪還を狙う共和党は、トランプの岩盤支持層を益々当てにしたいのだ。そうした事情があるため、共和党は、一層、トランプの主張を拒否してしまえない。

だから、共和党が州議会で多数を握っている南部のフロリダ州やジョージア州、或いは直近ではテキサス州などで、黒人やヒスパニック有権者が投票しにくくするような方向(たとえば、郵便投票の専用ポストへの投函が出来る時間帯を、昼間に限定、或いは、期日前投票の期間を圧縮したり等など)で投票ルールを見直そうとし始める(もっとも、テキサスでは、州民主党が、州共和党側のそうした動きを、一旦は、押しとどめているが…)。

こうした動きに対し、民主党側は、投票権の行使を一層容易にする方向(たとえば、オンラインでの投票を可能にする等など)での、ルール見直しで応じようとする。つまり、両党は、選挙の投票ルールを巡って、州議会レベルで激突しているわけだ(連邦下院議員への有権者の投票ルールを、各州の議会が決める仕組みになっているため)。

そして、両党の争点は、公平な選挙とは、どういうルールが適用され、どういう状況で行われなければならないか、そうした民主主義選挙の基本観にまで遡る問題へと深まっている。言い換えると、現下の両党の争いは、民主主義の根幹に触れるものとなっているわけだ。

しかし、政治の素人である筆者には、こうした共和、民主両党の対立を見ていると、皮肉なことに、政治思想も亦、便宜的なモノだと、見えてきてしまう。

たとえば、現在の共和党の創設時の顔はリンカーンだった。当時の共和党は、北部や中西部を基盤に、製造業や金融業に支えられ、黒人奴隷の解放を勝ち取った党だった。対して、当時の民主党は、南部のプランテーション地主を基盤とする、白人中心の農民党だった。

ところが今の両党は、その性格を180度変質させてしまっている。共和党が南部白人を中心に、加えて、ウオール街に支持者が多い党。対して、民主党はマイノリティーを基盤とし、製造業労働者に支持され、支持基盤は全米の大都市中心等など…、という具合である。政治心情そのものが、社会の変貌に依って、全く逆転してしまっているからだ。

いずれにせよ、バイデン大統領は、現下の、共和・民主両党の思惑や、戦術などを熟知し尽くしている。共和党側が、来る2022年11月の中間選挙で何を狙っているかなど、先刻承知のはずだ。だからこそ、中間選挙の影が大きくならない2021年中に、自らの政治アジェンダを全て成立させようと、決心しているように見えるのだ。人生の大半を連邦議会で過ごしてきた彼には、勝負は今年でなければもう来ない、とすら思い込んでいるような気がしてならない。そう考えると、今のバイデン大統領、年齢の割に闘魂に満ちているようにも見えてくるから不思議なものだ。

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