鷲尾レポート

  • 2022.07.22

2022年米国中間選挙、結果を規定する7つの要因

11月8日に投開票を迎える米国中間選挙まで、既に4ヶ月を切った。大統領選挙の中間年に開催されるこの選挙、各州代表で、任期6年の上院議員(100名)の3分の1と、人民代表と位置づけられる、任期2年の下院435議席の全て、更には、幾つかの州での州知事のポストなどが、民主・共和両党の候補によって争われる。上院の現有勢力は、50対50で、文字どおりの拮抗。下院は、本年3月段階での手許資料で、民主党219,共和党211。これ亦文字どおりの、薄氷の民主党優位である。

 

そうした中で、本年初頭以来、特に注目されたのは、2020年大統領選挙でバイデン、トランプ両候補が接戦を演じた7州中の6州(ペンシルバニア、ノースカロライナ、ジョージア、ウイスコンシン、ネバダ、アリゾナ)での上院選。それぞれの州の有権者の1~3%が心変わりをするだけで、結果は上院勢力の帰趨を決める(注)。つまり、これらの州の帰趨次第で、上院では民主党が多数を占める可能性が今なお、一部メディアの関心を惹いているというわけだ。

 

(注)この点、7月6日のNY TIMESは“A  BRIGHTER ,BLUER  PICTURE?”と題して、今回改選になる民主党上院議員たちは、民主党基盤州選出が多く、且つ、アリゾナ、ジョージア、ペンシルバニア、ネバダ、ウイスコンシンなどでの、共和党候補者たちの失言問題等を取り上げ、選挙地域の広い上院選は、下院選と違い、結局は、候補者の質が重要になると指摘しているが、果してどうだろうか?

 

更に、特別な理由で注目されているのが、両党の勢力拮抗州での州知事選並びに州務長官の選挙である。それらのポストは、連邦最高裁の中絶容認違憲判決を受け、現在、各州の共和党主導で、中絶を許さないような方向での州法改正が進められており、加えて、トランプ前大統領が言い立てている、2020年大統領選挙の無効主張などに直面し、そうした各種の動きや主張を、拒絶もしくは誘導することが出来る立場だからで、これら州知事や州務長官ポストを巡る選挙が、次の2024年大統領選挙との絡みでも、米国メディアの特別の関心をあつめている。

 

現下、米国マスコミや選挙予測機関の多数派は、議会両院のいずれでも、共和党が勝利し、最悪、行政府と議会の関係がねじれて、バイデン政権が少数与党化するのみならず、バイデン大統領は、議会での主要アジェンダ設定能力を失い、更に、議会の場での各種調査指導能力も失う。亦、同時に行なわれる州議会などの選挙でも、民主党が敗れることがあれば、妊娠中絶や選挙手段規制など、幾つかの州が進めている各種規制への抑制手段も失う。そんな悪夢が実現するかもしれない、との見方。

 

民主党は、何故、そんな状態に追い込まれてしまったのか。その間の事情を、もう少し深掘りして、振り返ってみよう。

先ずは、連邦議員選挙予測の推移だが、ユーラシア・グループの見立てによると、上院で共和党が多数を占める予想確率は、昨年央には55%程度だったのが、本年初頭には65%にまで上昇した。下院で、共和党が優位を得る予想確率は、これ亦、昨年央の80%から本年初頭には、90%にまで高まった。議会民主党にとって、状況は、昨年央から今年初頭にかけて、悪化したということだ。バイデン人気の凋落が、恐らくはそうした悪化の主因だろう。

 

昨年央といえば、バイデン政権がアフガニスタン撤退に失敗し、コロナ禍も再度盛り返す勢いの時期で、そうした内政上の劣勢を一気に覆すため、バイデン政権と議会民主党が、3月に議会採択した米国救済計画法(これには、多額の現金支給が認められていた)に加え、1兆ドルにも及ぶインフラ投資法の議会採択に向け、全力を傾注していた頃(採択は昨年11月)。皮肉にも、そうした立法成果を上げていたと同じ時期に、バイデン大統領や議会民主党への支持率が、低下し始めたのだ。

 

事態はその後、バイデン大統領にとって、一層悪化する。故に、バイデン政権は、国民受けの良い、対中強硬姿勢を益々深め、更に、本年に入り、ロシアがウクライナに軍事侵攻した直後、ロシアからのエネルギー輸入を抑制しようとし、加えて、ロシア産品の西側輸入を抑制する措置を講じ始める。結果、経済面では、資源供給制約に加え、企業のサプライ・チェーンが、経済安全保障の名の下に、大きく寸断され、折からの過剰流動性とも相俟って、米国内の物価は急激に上昇に転じた。これらを、11月の選挙を視野に入れた立場から総括してみると、概ね以下の7点に集約されるだろう。

 

(1)「過ぎたるは及ばざると同じ」・・・上述したように、バイデン政権の二つの立法成果(米国救済法とインフラ投資法)が、米国経済に過度な購買力を注入してしまい、現在の超インフレの基となった。コロ対策の要素もあったとはいえ、過度な購買力の市中散布だった。直近の米国世論調査を観ても、インフレの原因としては、「大企業の競争欠如への指摘が54%だったのに、政権の政策運営の所為との答えが62%を占めている。

(2)「年寄りの冷や水」・・・バイデン大統領(78歳)を始め、トランプ前大統領(76歳)、民主党ペロシ下院議長(80歳)、上院共和党マコーネル院内総務(80歳)、或は上院民主党の反逆児ウエスト・バージニアのマンチン上院議員(74歳)など、表に出てくる指導者は超高齢者揃い。米国政界に世代交代が近づいている。

(3)「It’s Economy ,Stupid(所詮は経済だよ)」・・・。冷戦を終わらせ、且つ第一次湾岸戦争で勝った、共和党ブッシュ大統領(父親)を、1992年大統領選挙で、民主党クリントン候補が破った時のスローガンがこれ。このスローガン、2022年中間選挙でも妥当しそう。

(4)「争点設定能力の欠如」・・・議会民主党側の結束不足で、バイデン大統領の打ち出すアジェンダが実現しない。例えば、上記マンチン上院議員が、折々に、民主党上院指導部の意向に反する姿勢を取り続けていられる(同議員は直近、バイデン大統領が売りにしていた、ビルドバック・ベター法案をも葬り去った)のも、自らの一票が、キャスティング・ボート化しているため。同議員の選挙区が、石炭産出州であり、民主党リベラル派の進める温暖化対策のための各種規制条項などに、己の選挙区の利害が合わないのだ。同様な事情は、共和党支持層の多い選挙区から選出されている、民主党議員の多くにも適用される。党派対立が激しい、中絶禁止問題など、共和党支持基盤の強い選挙区選出の民主党議員たちには、中々賛同しにくい課題が多い。

(5)「選挙区調整」・・・2020年に実施された人口センサスの結果が、本年の連邦議会下院の選挙区調整に用いられる。10年に一度の、この選挙区調整は、人民代表たる下院議員の選挙に際し、有権者の一票の重みに差があってはいけないとの趣旨の下、連邦下院議員の総数を435名に固定した上で、その間の人口の増減を加味して、各州に割り当て直される議員の数を調整する制度。各州内の選挙区をどう線引きするかは、それぞれの州議会や知事に任される。現在までの処、選挙区調整を余技なくされた州の多くで、線引きは既に完了している。結果は、民主・共和双方の痛み分けのようだ(もっとも、選挙区調整の余波を大きく受ける議員の数は、共和党よりは、民主党の方が多そうだが・・・それだけ不利化する度合いは大きいが・・・)。調整過程を見ていると、当該州選出の両党の下院議員たちは、結局、己の基盤が固まるような線引きで、合意し合ったということになる・・・。結果を見れば、2018年、2020年、それぞれの下院選で両党候補が激しく競い合った選挙区の数が、2022年には、大きく減少すると想定されているからだ。政治の現実とはそういうものだろう。

(6)「各自・独自の主張での、個人戦」・・・バイデン大統領への支持率が低下を続け、直近では39%台にまで下がっている。となると、各議員たちは、大統領の人気を当てに出来ない。それでも議会民主党は、中絶違憲の判決を下した連邦最高裁を敵に仕立てての、中絶合法化への新たな取り組みを前面に、女性票を確保しようとし、亦、大企業を槍玉に挙げての、全国的な争点造りに励もうとしているようだが、中々思ったとおりには行かないだろう。そして、もしそうなら、結局は、民主党の各候補は、各自独自の争点で、選挙を戦わざるをえなくなる。今回中間選挙が、国を挙げての争点ではなく、地域毎の利害を争う選挙になる可能性が高い、と想定される所以である(前記の注で紹介した、NY TIMESの記事も、こうした情勢認識を基に書かれたものだろう)。

(7)トランプ・ファクターをどう見るか。トランプ嫌いのNY Timesなどによると、彼の影響力は、一連の共和党候補選出予備選で、支援候補が余り延びなかった事例などを取り上げ、「トランプ支持者は減ったが、トランプイズムへの支持は依然強い」と、余り良くわからない解説で締めるケースが多いようだ。

もっとも、そうだからといって、同紙は、共和党内で、トランプに反対する場合のコストも相当なものになるとも指摘、ユーラシア・グループなども、「オハイオやアリゾナなどでは、トランプ推薦候補が勝ち残り、亦、彼の推薦は、候補者にとっては、少なくとも負債ではなく、選挙戦勝利へのプラス要因であることは間違いないし、更に、トランプの主張していた通商や移民問題への立場には共鳴する支持者が多いので、影響力は依然強い」と纏めている。

レポート一覧に戻る

©一般社団法人 関西アジア倶楽部