鷲尾レポート

  • 2022.08.17

2022年米国中間選挙、民主党が踏ん張れる可能性は?

11月8日に投開票を迎える米国中間選挙まで2ヶ月余。この選挙では、各州代表で、任期6年の上院議員(100名)の3分の1と、人民代表と位置づけられる、任期2年の下院435議席の全て、更には、幾つかの州での州知事のポストなどが、民主・共和両党の候補によって争われる。上院の現有勢力は、50対50で拮抗。下院は、本年3月段階での手許資料で、民主党219,共和党211。これ亦文字通りの、薄氷の民主党優位である。

 

現下、米国マスコミや選挙予測機関の多数は、議会両院のいずれでも共和党が勝利する可能性が高く、最悪、バイデン政権が少数与党化し、大統領は「議会での主要アジェンダ設定能力を失い、更に、議会の場での各種調査指導能力も失う」。亦、同時に行なわれる州議会などの選挙でも、民主党が敗れることがあれば、妊娠中絶や選挙手続き規制など、幾つかの州が進めている動きへの抑制手段も失うかもしれない、との見方。そうした認識の背景には、有権者の4分の3が「米国は悪い方向に向かいつつある」と感じ、亦、インフレが高進する中、消費者の経済の先行きへの信頼感も弱まり、それ故、バイデン大統領への支持率が40%前後を彷徨っている、という実態がある。

 

しかし、民主党は本当に踏ん張れないのだろうか・・・。へそ曲がりの筆者は、この機会に敢えて、上院で辛うじて過半数を維持するなどして、“ひょっとして“、党としての“土壇場の”踏ん張りを見せ得るかも知れない、と思った次第。その根拠として、以下の5点を考えてみた。

 

①直近、バイデン政権が数々の立法成果を上げた。例えば、8月に入ってから採択されたインフレ抑制法“Inflation Reduction Act”。この立法は、民主党内の団結不足で日の目を見なかったバイデン大統領提唱の“Built Back Better”法案の、謂わば、後継版。予算規模こそ縮小されたが、民主党念願の社会福祉改革、医薬品価格の抑制、企業増税(含む、自社株買いへの税導入)、気候変動対策など、てんこ盛りの内容。この立法成果で、とりわけアリゾナ、ジョージア、ネバダ、ニューハンプシャーの民主党上院議員候補たちには追い風が吹いた形になっている。更に、議会は亦、8月、超党派で、対中を強く意識した、多額の産業補助金を含む、半導体支援法も成立させている。加えて、バイデン大統領は、議会が何年にもわたって成立させ得なかった銃規制の法律も、成立させている。政治とは妥協の技術だ,と信じている節のある中道派バイデンの本領発揮といったところ。

 

②物価高騰にも抑制感が出始めている。ガソリン価格が漸く高止まり、1ガロン当たり4ドルを割った(8月中旬)、1年前の同期よりは尚高いとはいうものの、今年の最高値だった6月の5ドルと比べると、かなり価格が落ち着いてきている。このガソリン価格の低下傾向や航空運賃の下落、更には中古車価格の下落などで、食品価格や家賃上昇の影響が幾分なりと相殺され、7月の消費者物価上昇率は8.5%と、6月の9.1%から低下している。もちろん、だからインフレの峠を越したとまでは、現時点で判断できないものの、どうなるかわからないといった、物価上昇への心理的圧迫感は、かなり取り除けたのではなかろうか。

雇用も亦、回復し始めている。既報の通り、7月の雇用は、全業種で押し並べて、コロナ禍以前の水準に回復し、同月の失業率は3.5%にまで低下している。この数字、50年ぶりの低さだった2020年2月のそれとほぼ同水準。結果、賃金水準も上昇傾向を示し、喜んだバイデン大統領は、「我々は、労働者の家計改善に大きな成果を上げた」と宣言した。

 

③外交面でも、バイデン大統領は上手くやっている。ユーラシア大陸の西(ウクライナ)と東(台湾)で生じている緊張事態に、NATOを全面に立て、或は日米や米韓の同盟条約を楯に、紛争当事国(地域)に最大規模の武器類の提供を行なう姿勢を見せ、兵力は送らないが、軍事支援の形で事に処している。そして、それは亦、米国の軍事産業を、結果的に助成していることにもなるわけで、選挙に際しては、エネルギー産業支援と相俟って、それら産業からの民主党応援も十二分に期待出来る。

 

④本年初頭から、8月央まで、民主・共和両党は、党として正式の候補者を選出する、予備選を各地で続けてきた。その過程で、共和党内では、トランプ前大統領が支持を表明した候補者が、概ね勝ち残っている。世評はこれを、共和党内でのトランプの影響力が強まっていると分析しがちだが、筆者は必ずしもそうは思わない。むしろ、民主党にとっては、好都合だと受け止めている。

1970年代、民主党リバラル派が全盛だった頃、同党予備選で勝ち残るためには、党内に活動家が多い、リバラル派の支持を得るため、自らもリベラルの装いを凝らさねばならないが、実際の11月の、共和党候補との一騎打ちの段階になると、余りにリベラル寄りに着飾った我が身では、党外の一般有権者の支持を得られないので、急遽、穏健派に衣替えする候補者が多かった。今の共和党にも、そうした傾向が内在しているのではないのか・・・。党内で勝ち残るためには、トランプ色を身につけていた方が有利だが、一般有権者と接するようになる11月には、もっと穏健でなければならないと・・・。

実際、各種世論調査を眺めていると、「2020年大統領選挙は不正によって盗み取られた」との、トランプ前大統領の主張を支持している共和党員が40数%いる。この層を敵に回しては、党内候補の座を確保し得ない道理。しかし、逆に見れば、60%弱の共和党員は、そんな主張にうんざりしている。ましてや、数は少なくなっているとはいえ、無党派の中道層有権者が、そうすんなりと、トランプ的主張に乗るとは思えない。問題は、だから投票率だということになる。

中間選挙は、大統領選挙とは性格を異にする。ある意味、全国的争点で争うというよりは、所詮は個別の選挙区利害を巡る争い。投票率も低くなりがちだし、投票に出向く人も、高齢者や、民主党員よりは共和党員の方が多い。だから、民主党が、どの程度、投票率を引き上げられるか、その度合いが選挙結果を左右する。

 

⑤8月央以降、本番直前の11月7日の夜まで、党対党の本格的な選挙戦が始まる。両党の全国委員会が、それぞれに勝ち目があると見做す候補に、集めた資金を潤沢に振り分ける。つまり、次の2ヶ月が、党対党の選挙戦略発揮の時期になるわけだ。

その点に関し、有名な逸話がある。米国の某大企業が、自らのイメージを変えるため、2008年の大統領選挙戦(民主党オバマ対共和党マケイン)で、広報を担当した両陣営の責任者を招いて、教えを乞うたところ、「政治でもビジネスでも、最高のキャラクターの候補者が勝つのではなく、最高の製品を持つ企業が勝つのでもない。最もシンプルなストーリーを、分かり易く語った者が勝つのだ」との答えを得たという。つまり、「シンプルなストーリーを選んで、それを語り、さらに語り、ひたすら語る」。具体的には、今後の2ヶ月、テレビやラジオ、インターネットなど全米の広告関連業界に、どちらの党が、より大枚のカネを投じ、有権者に、「自党こそが政権を担い得る党だ」、との信頼を与え得るかどうか、且つ、そうした有権者を実際の投票にかり出せるかどうか、全てはその成果にかかっているわけだ。現状、民主党は中絶禁止の方向への異議を唱え、全国ベースでの動員をかける努力を

倍加させているし、亦、遅まきながら、バイデン大統領の立法成果と経済波乱の落ち着きの兆候で、民主党側に、良きストーリーを構築する材料も集まりつつある。

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