鷲尾レポート

  • 2022.11.15

2022年米国中間選挙暫定総括

米国の連邦議会選挙や大統領選挙等では、郵便投票のカウント具合や、接戦の場合の各州での得票の再集計、更には、州によっては再選挙などの仕組みがあって、投票日から数日経っても尚、結果の最終確定に至らない場合が多い。2022年の中間選挙も、こうした先例に漏れず、上下両院とも、11月8日投票の最終結果は、本稿執筆時の12日(米国東部時間夜;以下同じ)になっても、未だ判明・確定していない。

 

もっとも、実際には、選挙終盤での民主党の踏ん張りで、下院での共和・民主両党の議席差も、事前想定ほど大きくはならず、“最大でも”10議席以内に止まる見通しのようだ(ユーラシアグループ予測:民主214VS 共和221。NY Times 予測:民主216VS共和219。前者と後者の違いは、後者は、アリゾナ州6区とカリフォルニア州13区での、郵便投票のカウント予測で、民主党候補が先行している共和党候補を追い抜く可能性に着目しているため)。

更に、同上ニューヨーク・タイムズ(11月12日)によると、未だに民主党が下院で過半を制する可能性もゼロではないとされ、カリフォルニア州での郵便投票の開票が進めば、民主党下院が、共和党に対し、一矢を報いる可能性も、「全くありえない話しではない」とのこと(可能性は小さいが・・・)。

 

上院は、各種事前予測では、民主党が多数派を失う可能性が60%程度の確率とされていたが、終わってみれば、接戦のアリゾナとネバダ両州で民主党が勝利し、選挙前の勢力―民主50,共和50―が、選挙後は、民主50~51,共和49~50の線で落ち着きそうな雲行き(最終の勢力は、12月6日のジョージア州での再選挙結果次第)。要するに、バイデン大統領は、予想以上の上院議席確保と、これ亦、想定以上の下院民主党の善戦で、議会での指導権を、かろうじて失わずに済むのではないか、というわけだ。

 

こうした状況下、筆者としては、いささか早過ぎ、且つ、無謀であることを承知で、今回中間選挙の暫定総括を試みてみたい。

総括の視点・尺度は、以下の6点である。

第1は、今回の中間選挙も、結局は陰の主役がトランプであったこと。

米国司法の追求はしつこい。しかも、複数の機関が、同一の獲物をめがけて、何重もの攻囲網を仕掛けてくる。トランプ前大統領は、連邦司法省、ニューヨーク州検察当局、それに連邦議会等など、各種機関から、多くの問題で糾弾される立場に追い込まれている。トランプが、これらの追求から逃れる途はただ一つ、それは連邦議会に対するビッグ・インフルエンサーとしての立場を確立し、且つ、次期大統領候補として、己の姿を誇示すること。トランプが、性急すぎる程に、今回選挙で自身の影響力を示したがったのは、そんな思惑があったからではなかろうか。だが、トランプの思惑も、結果は裏目に出た。

 

連邦上院選ではトランプが推薦した候補がペンシルベニア、アリゾナ、ニューハンプシャーで敗北、それにジョージアも想定以上に接戦化。知事選でも、トランプ推薦の共和党候補が、ウイスコンシン、ミシガン、ミネソタ、ネバダ、アリゾナで敗北。州内務長官選挙戦でも、トランプ推薦候補たちは、ミシガン、ネバダ、ミネソタなどで敗北を重ねている。

こうした現状に、共和党の一部からはトランプと距離を置くべきだとの声が上がり始めた。とはいっても、トランプに忠誠心を示す共和党員も依然多い。

嘗て、60年代後半から70年代にかけて民主党が陥った罠(党内予備選で勝ち抜くためにはリベラルでなければならないが、その後の一般選挙では、自身に余りにリベラル色を着け過ぎると本番で勝てない)と同様なジレンマに、今日の共和党も填まってしまっているというわけだ。

トランプも、こうした自身を取り巻く状況の変化を受け、早々と「共和党各層に、自分の側に付くよう」圧力をかけ始めた模様。こうした動きが行き過ぎると、共和党内で、今後、一波乱起きる可能性も出てこよう。

 

第2は、上記とも関連するが、共和党のアイデンティティ・クライシスの可能性だ。現共和党の創設者は言わずと知れたリンカーンだが、設立当時は、守旧派の民主党VS奴隷解放の共和党の対立構図だった。それが、歴史の紆余曲折を経て、今や、“マイノリティー・女性・若年層・低学歴・低所得”の民主党対“白人・男性・高齢・高学歴・高所得”の共和党、という対立構図が基本となってしまっている。

トランプは、こうした構図を前提に、“Forgotten people never forgotten again”をスローガンに、低所得白人層を取り込んできた。そして、そうして築きあげた自己の、岩盤ともいうべき政治基盤を基に、従来の共和党支持層を説得、自己への支持を半ば強要してきたのだが、今や、そのトランプ支持基盤が共和党にとって、鬼っ子的存在に育っているというわけだ。

 

第3は、今回、民主党はかなり上手くやった。しかし、だから2024年の大統領選挙でバイデン支持の声が党内で高まるかというと、必ずしもそうは思えない。

バイデン大統領は、選挙が自己への信任投票化する事態を避けるため、もっぱら選挙戦は各候補者の独自の戦いに委ね、党本部は、女性票と若年層取り込みのため、“中絶許容”と“民主主義の危機”を前面に出す努力に専念、広告費用などを潤沢に提供したが、バイデン大統領自身を押しだしての大量動員などは極力控えてきた(終盤戦のオバマ・バイデンのセット運動は別として)。

故に、当選を果たした各議員たちにとっては、大統領の助けなく、自分で勝ち抜いた意識が強く、それが結局は、以後の議会政局において、大統領の指導力に必ずしも服さない行動となって表れるのではないか、との懸念が出てこよう。

巷間、トランプに勝てる民主党候補はバイデン、との評価が定着しており、皮肉なことに、トランプが次も出てくるなら、対抗上、バイデンも出るが、共和党候補が新人になれば、民主党も新人で対抗するという構図は、十二分にあり得るわけだ。要は、自身の年齢に鑑みて、2024年、バイデン自身が、不出馬の決断をする、そんな可能性も払拭出来ないのだ。

 

第4は、今後、米国政界を世代交代の波が急速に襲う可能性だ。トランプ大統領はまもなく80歳になる。下院民主党のペロシ議長も80歳代。議会上院の民主・共和両党トップも高齢者。彼ら全員が、早晩、政界引退の歳頃なのだ。

加えて、今回中間選挙で、民主党を踏ん張らせた有権者層は、どちらかといえば若者と女性だった。従って、今後、彼らの発言力が増大するのは目に見えている。そうした圧力に押される形で、米国政界の世代交代が急速にやってくるのでは・・・。

 

第5は、今年後半から来年前半にかけて、米国の景気が下振れする可能性だろう。そもそも、選挙の年に、FRBが金利を引き上げること自体、かなり異例のこと。政権与党は、選挙の年の景気維持には、必要以上に気を使うものだから・・・。それが今回は、金融を引き締め続けた。そうしたことが可能だったのは、ロシアのウクライナ侵攻があったからではないのか・・・。民主主義への挑戦とも目される、ロシアの行動に起因する、物価高騰への対策の緊急性に関しては、有権者一般が概ね理解しており、だからこそ、少し誇張を込めていうと、米国金融当局も異例の継続的な金利引き上げに踏み切れたのだ。

だが、今後は、米国企業の売り上げも減少、情報産業の業績も悪化、金融機関の業績も息切れ、だから経済も下振れし、失業率も下げ止まり、給与も上がらない可能性が高い。言い換えると、バイデン政権が経済政策の舵取りの上手下手を問われる事態が再びやってくる。そうなると、国の債務負担上限枠の拡大立法、何らかの企業救済策の施行、住宅ローン救済や家賃高騰対策等など、バイデン政権としても、更なる政策対応を余儀なくされる事態となろう。恐らく来年は、そうした内政上の課題に、バイデン政権は追いかけられる年になる。そうなると、再度の金利引き下げへの誘因も醸成されてくる。

 

第6は、ウクライナの戦場が冬期に入り、その利を生かそうとウクライナがロシアに挑む、そんな時期が来ている。中国でも、習近平が3選を果たし、バイデン民主党が議会統制の権限を失わずに済んだという意味で、米中共に、対立を整理・固定化・安定化させる仕組みを、改めて模索するタイミングを迎えている。11月14日のG-20の会合で、米中首脳間の対面会議が行なわれたのは、外交を再度可能にしつつある基盤が、漸く、整い始めた証左なのではあるまいか。

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