2022年中間選挙余談、動き始めた米政局
今後の米国の国内政治を展望するにあたって、中間選挙結果が影響を及ぼし始めた5つの分野を列挙・概観してみたい。
第1は、下院での共和党の多数派奪還といっても、It’s a totally nonfunctional majority(NY Times11月17日:今季限りで引退する,イリノイ選出の共和党穏健派下院議員の言葉)となる可能性があること。この発言をした議員自身は、トランプ弾劾に賛成した10名の共和党下院議員の一人(今回選挙で返り咲いたのは僅か2名のみ)で、その発言にも悔しさがにじみ出ているようだが…。
それにしても、米国上下両院の選挙結果の確定には、多くの時間がかかるもの・・・。 12月6日に再選挙が決まっている、ジョージア州での上院選は別として、下院選挙区では、 11月20日(日本時間朝)になっても、共和は過半の218議席を僅か1議席超えたのみで、当選219(含む、コロラド州3区:得票差が僅差。しかし、未だ正式の結果発表がない段階で、再集計の可能性もあるのに、民主党候補が早々と敗北を認めている)。対して、 民主212の硬直状態が続いたまま。
残る4議席(カリフォルニア州3区、カリフォルニア州13区、カリフォルニア州22区、アラスカ州1区)での勝敗は、郵便投票のカウント遅れで、未だ決着が着いていない模様。ここから先は八卦のようなものだが、アラスカ1区とカリフォルニア13区辺りは民主党の芽がありそうなので、ざっと見積もって、最終結果は共和221,民主214といったところか・・・。いずれにせよ、下院での共和党の優位奪還といっても、共和党の3~4人が寝返れば、計算上は容易に過半数の立場を変えうる道理。民主党左派が追求するリベラル・アジェンダなら立法が難しいかも知れないが、バイデン流の穏健・中立指向の争点なら、案外議会を通りそうな気もして来るではないか・・・。バイデン大統領自身も、恐らくそんな気分でいるに違いない。
第2は、政界の若返り現象が出始めている点。米国下院で初めての女性議長、リベラルで名を馳せた、ナンシー・ペロシ女史(カリフォルニア)が議長を退任することとなった (議員としては残るが・・・)。82歳。トランプの天敵とも見なされ、同大統領が議会での一般教書演説を読み上げている最中、その後ろの議長席で、彼女がトランプ大統領の演説草稿を破り捨てていた姿は、今でも多くの人の目に焼き付いているはず。
そんなスタンス故、トランプ支持者からは民主党リベラルの象徴と見做され、且つ、嫌われ続け、「ペロシを辞めさせろ」の声も大きく、最近では、彼女の夫が自宅で暴徒に暴行される事件すら起きた。
議長辞任も、そんな事件に嫌気がさしたのでは、との記者からの質問に対し、ペロシ議員は、「もし、あなた方夫婦のどちらかが、私のような目に遭えば、他人事ではいられないはず・・・。そんな重大な出来事であるにもかかわらず、(共和党右派は)事態を余りにも軽んじている。嘆かわしい限りだ」と、米国政治の現状に怒りの発言で応じている。
このペロシ女史の議長辞任声明直後、彼女とチームを組んでいた、ステニー・ホイヤー 下院民主党院内総務(83歳:メアリーランド)、更には、ジェイムス・クライバーン院内幹事(82歳:サウス・カロライナ)も、相次いで執行部ポストを辞する旨、表明した。
3者の後任には、少数党ナンバー1の、民主党院内総務候補にハッキーム・ジェフリー (52歳:ニューヨーク、ヒスパニック系)、ナンバー2の、民主党院内幹事候補にキャサリーン・クラーク女史(59歳:マサチューセッツ)、ナンバー3の、国対委員長クラスにピート・アギュラー(43歳:カリフォルニア)の名前が、それぞれ挙がっている。来年1月3日の新議会開会に臨むにあたって、民主党内で、この3名の人事が実現すれば、執行部の大幅な若返りが実現することになる。
一方、共和党指導部はケビン・、マッカーシー院内総務(カリフォルニア)が、このままだと下院議長に横滑りする見込みだし、同党の院内総務にはスティーブ・スカライス院内幹事が院内総務に格上げとなるだろう。要は、下院共和党指導部サイドには、余り若返りの兆候は見られない。
考えてみれば、当然だろう。下院共和党は、2018年の中間選挙の時、トランプ大統領(当時)によって、穏健派が大量に引退に追い込まれ(結果、同党はトランプ党に変質した)、その影響で、それなりの世代交代が既に実現していたのであって、下院民主党ほど、若返りの必要がなかった、ということになるのだから・・・。
第3は、共和党、なかんずく上院共和党内の団結の乱れの予兆である。事前予想に反し、多数派奪還がならなかった上院共和党は、11月16日、秘密会での投票で、ミッチ・マコーネル院内総務(80歳)の続投を決めている。唯、その決定は満場一致ではなく、対抗馬リック・スコット上院議員(70歳:2022年中間選挙の際の、共和党上院選挙対策委員長)を37票対10票(棄権1票)で抑えてのもの。スコット支持で動いた、テッド・クルーズ議員(52歳:テキサス)曰く、「共和党上院院内総務のこれまでの選挙で、二桁の反対が出た事例はなかった」とのこと。要するに、「この結果には満足していない層が多くいるぞ」との主張であり、スコット議員自らも、「現状維持のマコーネル指導部のやり方には、今後も、反対の声を上げ続ける」と公言している。
今回のマコーネル続投は、中間選挙後の混乱に、共和党上院議員の多くが、新顔のニューアプローチよりは、ともかくもベテランの熟練に、自らの今後を託する、そんな意志の表れであり、そんな党内ムードに、クルーズ議員等の中堅が、年長のスコット議員を押し立てて反旗を翻しつつあるのだ。こうした動きの背景にも、世代交代の波を観取出来るだろう。
第4は、11月末から12月一杯にかけての、レイムダック議会がかなり激しい動きを示すのではないか、との予測である。
下院の共和党の僅差での優越。それに、年明けで少数党派化する民主党指導部の思惑もあって、今の内に、それなりの仕事(政府諸活動の裏付けとなるつなぎ予算法案、国防権限法案、ウクライナ支援法等などの成立)に、民主党側が積極的に取り組むモードとなっている。
他方、下院共和党は、新年早々から、バイデン大統領の子息の海外ビジネス疑惑や、不法移民急増問題での行政府の不作為追求等など、数多くのテーマで、バイデン民主党を攻撃する準備に怠りがない。
しかし、下院共和党のマッカーシー新議長にとっては、多数派といっても僅差故、党内から僅かの造反も出せない緊張状態が続くと予想され、万が一、そんな造反が起ろうものなら、議会を覆いつつある世代交代の波に、彼自身も飲み込まれてしまいかねない、そんな緊張感が纏わり着く。
第5は、ガーランド司法長官が、11月18日、トランプ大統領への2つの犯罪容疑 ①在任中の、国家安全保障に関わる秘密文書を、退任に際して自らの住居に持ち出した疑い、
②大統領退任時の昨年1月6日に、暴徒の議会占拠を煽動した疑い)調査のため、特別検察官を設置、その職にジャック・スミス司法省元局長を任命したこと。それに先だって、11月15日、トランプ前大統領が2024年大統領選挙出馬を公表しており、その直後の、この任命に、トランプが激しく反応する。
特別検察官任命発表直後、トランプ前大統領は、「これはバイデン政権が、権力を乱用して、これまで数多く繰り広げてきた、魔女狩りの最新版であり・・・、不公平・・・、米国が歴史的に偉大な瞬間(米国を取り戻す、偉大な選挙結果を示した時期、の意か・・・:筆者推測)に対する、悪意ある行動であり、とりわけ、自分にとっての悪意ある行動だ」と批判した。
司法長官任命の特別検察官は、調査結果を司法長官に提出するのみで、その提出を受け、司法長官が、調査結果が指示する内容通りの処置を実際に講ずるかは、また別問題。しかし、そうはいうものの、今回の特別検察官任命が、トランプ個人にかなりの重圧感を与えるものであることは、疑いなかろう。司法省は更に、2020年大統領選挙後のトランプ陣営の資金の流れ(とりわけ、2022年の選挙無効キャンペーンに絡んでの)にもメスを入れ始めており、こうした動きが、トランプの次期大統領選出馬発表の直後に一気に顕在化してきたこと、真に政治絡みの人間関係は恐ろしい、との印象を強くせざるをえない。
トランプ前大統領は、上記2件に加えて、
③ビジネス絡みの組織“Trump Organization”の脱税案件(ニューヨーク州のマンハッタン地検が担当)。と、
④大統領当時、2020年選挙での、自らへのジョージア州での集票に疑念を唱え、州地方長官に調査を命じた案件(ジョージア州アトランタ検察)、更には、
⑤刑事ではなく民事だが、トランプ・ビジネス組織の財務状態について、トランプの親族たちが、顧客に嘘をついた云々の事件調査(ニューヨーク州検察が担当)等が俎上に乗っている。
だから、こうした動きが、共和党内の親トランプ派をどう刺激するか、そんな観点からの政局観察も必要となってきてしまう。
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