鷲尾レポート

  • 2023.11.07

2024年米国大統領選挙、もし貴方がバイデン陣営の選挙参謀だったら…

2024年の世界は、選挙一色になる。

先ず、1月には台湾で総統選挙がある。3月にはロシアで大統領選挙が、4月には韓国でも総選挙、NATOの重鎮英国でも年内に議会選挙の見込み。そして11月になると、米国でも大統領選挙が行なわれる(その間、日本でも…?)。

そうした選挙では、コロナ禍からの脱出過程で派生したインフレと、それへの対応としての金融引き締め、更には、それらが惹起しているスタグフレーション的な経済現象に、有権者の政権与党への批判が高まっており、幾つかの国では、政権交代を余技なくされる事態すらあり得る。事実、そんな先例は、本年中に選挙が行なわれたポーランドやスロバキアなどでの与党敗退が明白に示している。これら両国は、ウクライナ支援に先頭切って走っていた国々。それが今、どちらかと言えば、これ以上の支援に消極的になり始めている。

 

要するに、各国の与党が敗退すれば、国際政治の場でバイデン大統領が創り上げている、同盟国間のウクライナ支援体制も、対中共同対処の構造も、或は、現在進行中の中東混乱への(出来れば米国単独ではなく、最終的には)有志国による共同対処構築への試みも、一気に崩れてしまう可能性が大きくなる。共和党下院議長を巡る米国政治の混迷も、或は直近、顕著になっているように見える米中間の頻繁な高官接触も、見方を変えれば、そんな将来を見据えてのものなのだ。

 

だからこそ、現在、辛うじて創り上げつつある、米国主導の国際政治の基調を、今後とも維持して行くためには、何としても、バイデン大統領は選挙に勝たなければならない。

故に、今回のレポートでは、浅学の身ながら、且つ、見方にバイアスが入ることを承知で、敢えてバイデン陣営の選挙参謀になった気で、どうすれば選挙戦を有利に導けるか、各種観点から対応を考えてみたい。

 

勿論、大前提としては、来年の米国経済が好調を維持してくれないと困る。亦、選挙の年に、金融引き締めなどやって欲しくはない。だから、今年末までの連邦準備制度理事会の金融政策の在り方には最大の関心を払い続け、出来れば来年には、金融は緩和出来る余地を充分に創り出しておきたい。

混迷する議会と付き合いながら、民主党支持有権者の関心に、先手、先手での対応もしておきたい。本年中に打ち出した、教育ローンを受けている学生たちへのローン支払い停止措置(結局は、保守派が牛耳る連邦最高裁に拒否されたが…)や、メキシコと移民問題を話し合い、同国の一定の理解を得た上で、再度、国境沿いに不法入国阻止の壁を構築する決定を下したのも、或は、全米自動車労組UAWのストに、それが電気自動車導入推進とは相反する可能性が出てくると承知しながら、敢えて組合側に立ってスト支援に回ったのも、これ全て、来年の選挙を意識したため。

更に、今程までに混迷している議会を相手にする場合、全ての問題への対処を、一本の法案で妥協・対処するような従来型のやり方は、最早通用しない。問題が複雑になりすぎ、各問題への利害代弁者が、余りにも多く、且つ、多様化してしまっているからだ、

だから当面の緊急課題、例えばイスラエル向け支援とウクライナ向け支援、これら両者を一本の法案に盛り込んで対応するという当初方針を採り続けていると、時間が徒過するばかり。事案の緊急性に鑑みて、取り敢えずコンセンサスのある、イスラエル支援だけでも議会を通す。その後の取り扱いも当面は議会民主党、とりわけ上院民主党に任せる。行政府としては、ウクライナラ向け支援は別途考えれば良い。いずれにせよ、多くの複雑な問題の種を因数分解して、個別に対応を地道に重ねて行くしかないのだ。

 

選挙戦を考える場合、相手の支持基盤を分断し、軟弱化させ、場合によっては、当方の側に付かせる、そうした戦術が全て…。だから、そのためには、先ずはバイデン政権の弱みの補強、そしてトランプ候補の強みの原因の解明、この2つから始めねばなるまい。

その点で参考になりそうなのは、NYT紙10月30日の記事だった。そこには、バイデン・トランプ両候補への有権者の支持の強さ・堅さの違いが分析されているからだ。

以下、同紙の記事を、筆者なりに理解し、その概要を書き出しておく。

 

「直近(ハリス調査;11月4日)のバイデン対トランプの支持率を比較すると、バイデン支持が49%、トランプ支持が51%となっている。バイデンが現職であるにもかかわらず、そしてトランプが数多くの訴訟を抱えているにも関わらず、全国ベースの数字上では、トランプが僅差ながらも優位を示すのである」

考えてみれば、バイデン(選挙時点では81歳)とトランプ(同じく78歳)、二人の歳の差は、そんなに変わらない。それにもかかわらず、バイデンの高齢は問題視され、トランプの歳は問題にされない。その違いはどこから来るのか…。筆者の私見では、その原因の一つは、トランプが岩盤支持層を保有しているのに対し、バイデンの支持層は液状化した地盤であるからだろう。

同記事の中では、NYT/Siena College共同調査の2つの結果(2022年中間選挙の際、実際に投票した有権者と、投票しなかった有権者)が比較されている。

周知のように、2022年の中間選挙では、バイデン大統領は、それが自分への信任投票的色彩を帯びるのを避けるため、選挙戦の前面には出なかった。亦、トランプ前大統領も、当事者としては選挙の前面に出ていない。そうした2つの要素を除去した結果、民主党の予想外の善戦だった、というわけだ。

以下は、再び、同記事の中身の紹介である。

「2022年中間選挙に投票した有権者のイメージは…

  1. どちらかと言えば年配者(65歳以上が31%、30歳以下が9%)
  2. 共和党支持者が33%、民主党支持者が31%。
  3. 投票者の比率で見ると、白人72%、黒人9%、ヒスパニック9%。
  4. 総じて高学歴者で、全投票者の41%が大卒者。
  5. そして、このグループのバイデン対トランプの支持率比較をすると、バイデン支持47%対トランプ支持43%だった。

つまり、若年層が総じて投票せず、マイノリティーも亦、投票していないし、高校卒業者も余り投票しなかった。そんな有権者母集団で、民主党は、想定以上に善戦したのだった」。

 

これに対し、2022年中間選挙に棄権した有権者のイメージを、同じく世論調査から見てみると、バイデンの弱みとトランプの強みが、よりはっきりと浮かび上がってくる。

再び同記事からの引用である。

「そこに描かれている棄権者のイメージは…

  1. 若年層(18歳から29歳)が棄権者全体の26%と高く、対して高齢者(65歳以上)のそれは17%と相対的に低かった。
  2. 民主党支持者の方が、棄権率が高かった(26%、対して、共和党支持者の棄権率は19%)。
  3. 棄権者全体に占める白人の比率は54%、対してヒスパニック19%、黒人13%。
  4. 全棄権者に占める高卒以下の比率は72%、大卒以上は28%。

つまり、棄権する若年層が多く、総じて高齢者が投票しており、民主党支持者の棄権も多く、非大卒の棄権も多かった」。

NYT紙は、この2つの調査を比較して、バイデン大統領の弱みを次のような要素に帰着させる。それは、若年層に加えて、白人非大卒者の支持が緩いこと、更に亦、黒人層やヒスパニック有権者の支持も軟らかいこと等など。

 

だとすれば、バイデン大統領の弱みを補強するために、前述したような各種対応を、譬えそれが前回選挙時の公約だったとしても、暫定的にその公約を破る措置を講じるのも仕方がない、ということになる。

そんなバイデン政権側の公約違反を、トランプ陣営からとやかく言われる謂われはない。何よりも、その多くをトランプが打ち出し、バイデンが拒否したものが多いからである。例えば、上記のメキシコ国境への壁建設などは、そうした理由に基づく公約違いの代表例。元々は、トランプ大統領が打出し実施していたものだが、2020年の大統領選挙で勝ったバイデン大統領が、その廃止を決めたものだった。それを、再度復活させた。つまりは、それらの問題を争点化させない、そんな意味で、“争点無くし”にも繋がる。唯、そんな措置を復活する場合には、必ず相手国の事前同意も取っておく。それが要諦となるのだ。

 

いずれにせよ、この2つの調査結果からNYT紙は、バイデンにとってのGood News とBad News双方を指摘する。

Good Newsの方は、通説とも言える投票率が高くなれば、元々の民主党支持者である、非大卒労働者層や若者層等が、バイデン支持に回帰する可能性。

Bad Newsは、皮肉なことに、棄権者の多くが、実は今やトランプの岩盤支持者と重なっており、彼らの投票率を引き挙げると、通常の民主党有利という定説が実現せず、むしろトランプ支持票を殖やす結果にもなってしまう可能性。

故に、同紙は、そんな状態に置かれているバイデン陣営に、的を絞るべきは同じ非大卒労働者層でも、自らを民主党支持と名乗る層に限定してのアプローチを勧めるのである。自己アイデンティティこそが全てというわけだ。今後は、2022年中間選挙に棄権した、自らを民主党員だと認識している有権者層を的確に捕まえ、そこに注力しろと…。

 

最近では、バイデン選挙対策本部は、ハリス副大統領の再売り出しに傾注し始めている。

英紙ファイナンシャル・タイムズ(10月26日)によると、ホワイトハウスは最近、同副大統領に、これまでの外交分野に加えて、人工中絶容認、ゲイ、銃砲規制、気候変動、投票権問題等、広範な国内争点にも積極的に発言させる機会を作っている。

更に同紙は亦、バイデン選挙対策本部が、ハリス副大統領を全米各地の大学に派遣し、若い学生たちの取り込みキャンペーンを始めた、とも報じている。

ハリス女史は59歳。有権者一般からの、バイデンへの老齢不安感に、対応するには充分過ぎる若さだが、就任以来、自らの女性としての強みや、前職がカリフォルニア州検事だった経歴故の、法秩序の信奉者としての強みを、必ずしもこれまでは発揮させて貰えていない。

つまり、必ずしも己の得意分野で使われてきたとは言えないのだ。

だから、副大統領としての仕事への有権者からの評価率も38.8%と低く、不評価率が54.9%にも達するほど。これを、選挙までの1年で、大幅改善させ、バイデン大統領の弱みを相殺するに足る、強いイメージの副大統領候補にふ化させ直さなければならない。

ハリス副大統領自身も、そんな己の役割を自覚している。

昨年、連邦最高裁判所は、Roe VS Wade判決で確立していた女性の人工中絶の自由を覆したが、彼女は積極的に、その事案を我が取り組むテーマとして、堕胎の自由を擁護する行動を取り始めた。女性有権者対策であること、言うまでもないだろう。

ハリス副大統領は亦、これまで封印してきた、持ち前の挑発的姿勢を復活させ始めている。その対象としたのがデサントス知事のお膝元、フロリダ州だった。

同州はこれまで、選挙に際してはSwing Stateと見做されていたが、デサントスが州知事になって以来、同性愛者の抑制や学校教育への保守的価値の盛り込みなど、社会の方向を保守派の価値観に引き寄せ続けてきた。それ故今や、同州は共和党保守派の牙城とみられるに至っている。

ハリス女史は、そのフロリダに乗り込んで、資金集めの会合を行い、席上、「フロリダは今や、共和党の自由抑圧の震源地」と言い放ったのだ。嘗ての女性闘士の面目躍如たる場面ではないか。

 

一方、バイデン大統領の支持率軟弱化を尻目に、トランプは共和党内で、盤石の支持の堅さを維持し続けている。では、その地盤の堅さは、どこから来ているのか…。

その根源を知るために、これ亦、別のNYT/Siena College共同調査で観てみよう。以下の説明は、NYT紙8月17日の記事を抜粋したもの。

 

「現在の共和党は6つのグループから構成されている…。

第一のグループは、The Moderate Establishment。共和党支持者の大凡14%。高学歴、富裕、社会的には過激を好まない。反トランプ感情が強い。

第二のグループは、The Traditional Conservatives。共和党支持者の大凡26%。トランプ登場以前には、党の主流派の一角を形成していた。伝統的な小さな政府派。人工中絶に反対し、減税に賛成する。規制強化に向けての移民法改正にも賛成し、ウクライナ支援にも賛成する。このグループの中で、トランプに好意的な層は39%に過ぎない。但し、このグループ全体としては、反トランプとまではいかない。どちらかというと、争点毎に是々非々の姿勢を採る。

第三のグループは、The Royal Wing。保守派のTV・Fox Newsの視聴者。共和党支持者の大凡26%。米国は破滅に向っている、との危機意識が強い。各グループの中では、最も強いトランプ支持派。

第四のグループは、The Blue Collar Populists。共和党支持者の大凡12%。殆どが北部労働者階級に属している。社会価値的には保守派とは言いにくい。このグループの4分の3が、非大卒で白人。人工中絶は合法だと答え、同性婚にも反対ではない。しかし、通商や経済に関しては保守的考え方を貫く。嘗ては民主党支持者だったが、トランプ教徒になった、譬えれば、民主党にとっては、ある意味で敵に寝返った鬼っ子。

第五のグループは、The Libertarian Conservatives。共和党支持者の大凡14%。西部や中西部に偏在。自由を信奉する価値意識が強く、統制を嫌う。第一グループ、第二グループに次いで、反トランプの意識が強い。

第六のグループは、The New Commers。多くが18歳から29歳。若く,多様で、穏健。その59%が白人、18%がヒスパニック。共和党支持者の大凡8%」。

 

「上記6グループの内、トランプ支持の中核、岩盤支持層を形成しているのは、第三のThe Royal Wingと、第四のThe Blue Collar Populistsで、共和党支持者の大凡38%。時に応じての共和党員のトランプ支持率は、この中核2グループに、折々に強調される争点への支持が他のグループから加わって高くなる、という仕組み」。

例えば、2024年大統領選挙候補選びの、共和党としての最初の党員大会開始地のアイオワ州での、直近10月末段階での世論調査(Des Moines/NBC News/Mediacom共同調査:同州の党員大会に出席予定と答えた共和党有権者への調査)では、トランプ支持率43%が、前回8月の同調査結果42%と変わっていない。これはつまり、38%の岩盤基礎票に、その地毎の関心テーマに応じて、数パーセントの付録がついている、そんな状況だと考えれば良いのだ(ちなみに、アイオワでの共和党第2位の支持率候補は、デサントスとヘイリー女史が、同率の16%だった。デサントスの失速感が明らかだし、反面、唯一の女性候補ヘイリー候補への支持率上昇が目についている)。

 

トランプが基礎票に大幅な積み増しを行なっている州として、顕著なのが2月24日に共和党の予備選が予定されるサウスカロライナだろう。

この州は、バイデン大統領が民主党最初の予備選実行州に選定した場所。バイデンなりに,前回好成績を上げたこの州で、選挙戦をキック・オフさせたいのだろうが、それを知っている共和党のトランプの側も亦、前回の屈辱を晴らすため、殊更この州には力点を入れており、結果として現状、共和党員の53%(CNN調査:以下同じ)という、極めて高い支持率を得る結果となっている。

ちなみに、2位ヘイリーが22%、3位デサントスが11%だった。この州絡みで付記しておくべきは、ヘイリー女史が嘗てサウスカロライナの州知事だった事実であろう。今のところ、彼女は、トランプ陣営の物量戦に、出身州で押されている感は拭えない。

 

だが、共和党内で優位に立つトランプ候補も、大きな負債を抱え込んでいる。それは言わずと知れた訴追案件を幾つも抱え込んでいること。

その訴訟にも、民事案件もあれば刑事案件もある。ここでは、その内、刑事案件に関するものにもっぱら視点を絞っておこう。

筆者が知る限り、少なくとも以下の4件が重要である。それらは…、

  1. トランプが煽ったとされる、暴徒の連邦議会乱入事件。司法省の特別検察官による調査は2021年12月に始まり、本年8月に訴状が裁判所に提出された。予定では来年3月に裁判が始まる。
  2. ジョージア州での選挙結果を覆そうとした案件。はやり本年8月に訴状が裁判所に提出されている。何時から裁判が始まるか、現時点では不明、恐らく来年早々ではないだろうか…。
  3. 機密文書持ち出し案件。2022年3月に司法省の調査が始まり、本年6月に裁判所に訴状が提出され、来年5月に裁判が始まる。
  4. トランプ保有のビジネス組織Trump Organizationの脱税案件。事案は2017年発生したが、裁判所に訴状が提出されたのは本年3月。裁判は来年3月に始まる。

***これら以外に、明らかになっているのは、上記Trump Organizationが保有資産を膨らませ、金融機関から多額の融資を引き出したとの、詐欺容疑の事件(これにはトランプの3人の子供が出廷を余技なくされ、大きなニュースになった)、更にはトランプ自身が引き起こしたレイプ事件裁判、或は、関係したポルン女優に選挙資金から口止め料を払ったとされる事件等などがある。

 

トランプ候補陣営にとって、訴訟絡みの問題が重要な理由は、次の3つだろう。

一つは、個別裁判が進む度に、側近だった弁護士や顧問たちが、次々と司法取引に応じ、その度にトランプの嘗ての発言の信憑性が崩れて行くこと。

二つは、それらの結果、有権者の内にあるトランプへの信頼感が薄れて行く可能性。

三つは、本格的裁判が始まる日時が、来年の共和党の予備選が集中する3月5日(15州:AL、AK、AR、CA、CO、ME、MA、MN、NC、OK、TN、TX、UT、VT、VA)、或はその後の3月12日(4州、GA、MS、MO、WA)と重なっていること。

それ故、該当の予備選や党員大会の場で、トランプのライバルたちは当然、この一連の裁判案件を取り上げるだろうし、トランプ批判の立場を取る候補者も出てくるであろうこと。(逆に、時の情勢次第では、トランプの魔女狩り説に同調する可能性もあるが…)。いずれにせよ、裁判が実際にどの程度、有権者の投票行動に反映されるかは、やってみなければ、やはり分からないのではないか…。

***特に、上記に記述したレイプ事件の裁判は、真に共和党の最初の党員大会が開かれる、その同じ日の1月15日から始まるのも皮肉な話。

 

では、こうした訴訟に、トランプ陣営はどう対処するつもりか。

答えは既に出ている。それは、こうした訴訟を、政治的動機に基づく魔女狩りだと批判し、逆にバイデン政権の、そうした姑息なやり方を、訴追される度にトランプ自身が裁判所の前でカメラに向って訴え、或は、直接E―メイルなどで、己の支持基盤に訴え続ける。つまり、従来からのやり方を今後も蹈襲し続ける、というもの。

 

こうしたやり方が、現時点までは成功していること、支持率の上昇振りや、選挙資金の集まり具合が好調なことなどからも、容易に見て取れよう。

嘗ての共和党院内総務で、後に、トランプ派に党を追放された形になっている、エリック・カンター元下院議員の側近だった専門家は、今日、共和党の中の、最も過激分子たる少数の議員の言動に、マスコミ報道が集中しすぎると苦言を呈する。彼ら少数の過激分子は、党内指導者の意見を聞かず、選挙資金源の話も受け入れず、唯、タイミング良く、社会の脚光を浴びた方が勝ちだ、考えているという。そして議会には、そんな議員心理が蔓延しているというわけだ。

 

こうした共和党側の混乱の中で、明らかになり始めた各種傾向に対し、バイデン民主党大統領はどういうスタンスを取れば良いのか、それは…

○あくまでも、一国のリーダーらしく、有権者に、自分が国全体を指導している姿を見せ続ける。その意味では、直近の中東の混乱などは、そうした姿の最適の見せ場。

○国内の政策争点に関しては、Make America Great Again(MAGA)のスローガンに対し、それは当然のこと、言われなくても自分も同じだと、出来るだけ軽くいなす。バイデン政権の、そんな方向での実績として、半導体産業や電気自動車育成、産業分野での安全保障策の採用など、いくらでも提示出来る。

○議会内での混乱に対しては、共和党は統治能力がない政党だと決めつける。

そんな例は、①下院議長の選出を巡るいざこざ、②社会は妥協で成り立っているのに、何処までも唯我独尊的に我を通そうとする一部共和党議員の姿勢、③挙げ句の果て、僅か数人に、共和党全体が引っ張り廻されている、党自体の組織統制機能の欠如、④そんな風潮の基礎にある、国や社会のことよりも、党内身内の中での、己の立場しか考えない話に、議論が終始する視野の狭さ等など。

いずれにせよ、現在の米国政治は、直近、自党の下院議長辞任を、たった8名の党内少数派で実現させてしまう、そんなsmaller majority政治(トランプ大統領時代の側近、ステファン・バノンの言葉)が横行しているわけだ。

○そうした諸問題は、党としての共和党の機能不全から来ているとして、問題の根源は共和党自身の在り方だと、有権者に対して問題提起し続けること。

 

最後に、ユニークな動きを付記して今回レポートを終わたい。

それは修正憲法14条3項問題。この条項は、南北戦争の動乱期に憲法に導入されたもので、憲法に宣誓して職に就いた指導者に対し、謀乱や反乱した者は、大統領になる資格を認めないという規定。今、この憲法規定を楯に、トランプの大統領候補資格を認めないよう、コロラド、ニューハンプシャー、ミネソタ、ミシガンといった州の選挙管理委員会に対し、それぞれの州住民から申立書が提出されている(カリフォルニアでもそうした動きがある)。勿論、こうした申し立ての決着は、最終的には連邦最高裁判所に持ち込まれることになり、今回選挙期間中には決着が着くとは思えないが、長い選挙戦の道のりを考えると、こうした申し立てが、ひょんな処でひょんな効果を発揮することも、十二分にあり得ると心しておくこと。

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