鷲尾レポート

  • 2023.12.06

2024年米国大統領選挙、正式スタート間近~もし貴方がバイデン陣営の選挙参謀だったら(パート2)~

2024年米国大統領選挙の共和党候補選びの、スタートとも言うべきアイオワ州党員大会(2024年1月15日)が、1ヶ月余り後に迫っている。

そんな中、世論調査で、常に他候補を圧倒しているトランプ前大統領は、①アイオワで圧勝し、②その後のレースに競合相手が立てないような状況をいち早く創り、③共和党の大会(ウイスコンシン州ミルウォーキー:7月15~18日)を待たずに実質上の共和党候補となる。そして、④その余勢を駆って、その時点から先は、民主党現職のバイデン大統領との戦いに専念、⑤来年11月の本番の選挙で米国の大統領に返り咲くのだとの勝利に向けたシナリオを、11月18日(土曜)、アイオワ州内の高校の体育館で開催された決起集会で具体的に明示した。

 

と同時に、トランプ候補の選挙レトリックにも、大統領時代の己の実績を強調するトーンが、益々鮮明となってきた。例えば、アイオワ州の11月18日の集会では、民主党が、これまでの慣例を破って、アイオワやニューハンプシャーの党員大会や予備選を冒頭に持ってくるスケジュールを破棄し、最初の予備選をバイデン大統領が2020年で勝利する切掛けとなったサウスカロライナにセットしたのを皮肉って、「私はアイオワ州を、米国での最初の党員大会開催州として、これまで通りに遇している。だから、アイオワ州民たるあなた方も私に、そんな良い機会(共和党の、揺るぎない候補の座)を与えて欲しい」と語る余裕を見せ、併せて、同州経済にとって重要なエタノールを、今後の燃料源として重視する姿勢を鮮明にするとともに、己が大統領だったときに、アイオワの農業に280億ドルの連邦予算を注ぎ込んだ実績を強調、その財源は中国からの輸入品に課した関税だったとの論法を展開して見せた。

 

共和党の他の候補にとっても、戦いの緒戦となるアイオワ州の重要性が益々高まっている(尤も、クリスティー元ニュージャージ州知事は、この州での戦いをパスし、次のニューハンプシャー州予備選に懸けているが…)。

「アイオワ州で、踏ん張りを見せねば、後はずるずると、先行馬トランプに置いて行かれるだけ」、そんな切迫感が、デサントスやニッキー・ヘイリー女史の陣営に漂っている。既に、何人かの共和党候補はレースから離脱し、上記クリスティー候補にもレースからの撤退を迫る圧力が高まっている。だから、共和党内でのレースという点だけから観ると、現状、デサントスとヘイリー、この二人がトランプ対抗馬として、かろうじて残っている、というのが実態だろう。そして、その勝負は、緒戦のアイオワ党員大会の結果に依って、大勢が早々と決まってしまう可能性も大きい。

デサントス陣営は相変わらずゴタゴタが続いている。

選挙対策委員長だった大口献金主が、対策本部内部の意見対立で辞任し、この期に及んで猶、体制建て直しを迫られる羽目に…。もっとも、その彼にとってのグッド・ニュースは、アイオワ州のキム・レイノルズ知事(女性)が、其れまでの中立姿勢を捨て、デサントス支持を公言してくれたこと。

一方、ヘイリー候補の方にも、一方では彼女の減税・歳出削減主張に賛同し、他方ではトランプへの嫌悪感からか、米国の財界大物(JP Morgan Chase の会長やHome-Depotの創業者など)からの資金提供の申し出が次々と為されている由。

唯、こうした提案は、NYT紙の解説(2023年11月24日)では、ある種の 絶望からのもので、「彼女も,今のままではトランプに勝てない。だが、ウオール・ストリートの大物たちが、相次いでヘイリー女史をViable な代替候補と見做しているとのイメージが、共和党支持者の間に広まれば、ひょっとして彼女もトランプに勝てるようになるかもしれない、との一部の望みをかけて…」と言うことになるらしい。

 

以上のようなアイオワ州での2位争いの激化は、共和党内のレースは「自分とトランプの二人ゲームだ」とこれまで主張し続けていた、デサントス陣営を窮地に追い込むもの。まして、アイオワ後の対決の場であるニューハンプシャー州(予備選1月22日)では、直近の州内世論調査でデサントスは5位に甘んじており(対してヘイリー候補は第2位に付けている)、同州内でのデサントス支持の勢いは完全に失速に近い。

だから、デサントス陣営は、ニューハンプシャーでの劣位をカバーするため、次のネバダ州党員大会(2月8日)に加えて、その後の予備選開催(2月24日)州・ヘイリー女史のお膝元・サウスカロライナで、大枚の選挙資金を注ぎ込んで、ヘイリー追い落としの選挙キャンペーンを張らざるをえなくなっているのだ。つまり、ここに観られる状況は、共和党内での2位争いが、結局は断トツの首位トランプ陣営を傷つけるどころか、むしろ利することになっている構図だろう。こうした両者が相争う事態を、トランプ陣営の幹部は「最初の敗者を決める戦いだ」と揶揄して見せた(NYT紙11月27日)。

 

しかし、上記のような意味合いで,追い詰められた観のあるデサントス陣営は、或る意味、死中に活を求める変則的戦術を産み出すに至る。それは、保守系のFox Newsの討論番組で、Red State フロリダの州知事として、Blue Stateカリフォルニアのニューサム州知事と、TV討論するというもの。

両州の政治風土は、移民や人工中絶への姿勢、コロナ対策、規制緩和姿勢など、いずれも際だった違いを見せており、それ故、Fox News の建前の目的としては、それらへの政策の違いを、現状の米国社会の分断に写し合わせて、両州知事に議論させようとしたもの。そして、その実際の討論は11月30日に行なわれた。

ニューサム知事は、民主党リベラル派、2028年大統領選挙に出馬すると観られているが、そのために全国的に名を売る目的からか、保守マスコミの牙城Fox News の番組に,これまでも何度か登場した実績がある(例えば、本年6月には「税と規制」をテーマとした1時間もののインタビュー、更には9月には、「2024年大統領選挙出馬の可能性」をテーマにしたインタビューに…)。そんな経験故か、Fox News が仕掛けたフロリダVS カリフォルニアの州知事討論に、デサントスの相手役として登壇することに同意したもの。

一方のデサントス知事は、これまでの共和党内の討論にトランプ候補は一度も登場せず、ためにトランプと直接討論する機会がないまま現状に至っており、そんな彼にとって、自らの若さ(デサントス45歳、ニューサム56歳)を、高齢のバイデン現大統領(81歳)とトランプ前大統領(77歳)と比べるよき機会とばかりに、Fox News の企画に飛びついたのだろう。

NYT紙は、Fox Newsの裏の思惑を、「当然にニューサム・カリフォルニア州知事はバイデン大統領を擁護する(彼はバイデン再選委員会の共同委員長でもある)であろうから,その彼をデサントス知事が攻め論破すれば、自ずとバイデン政権の実績が如何にまやかしものであるかを、共和党保守派有権者の前で明らかに出来る」と踏んでいた、と解説する(同紙12月1日付け)。

だが、NYT紙の見立てでは、その同TVの裏の思惑は、ニューサム知事の奮戦で失敗した。テレビ討論を通じてニューサム知事は、共和党のトランプ支持者の間では、悪いと思われている米国経済が、失業率の点からも、経済成長率の点からも、そして所得上昇率の点からも、実はむしろ良いのだと、日頃バイデン政権の言うことなど聞く耳持たぬ共和党内保守派有権者の耳に、バイデノミクスの成果を直接吹き込んだのだから…。

 

そもそも、以上のような、共和党側の、今なおトランプ圧倒的に優勢、という情勢に対し、バイデンの選挙参謀たちは。これまでどう対応していたのか、或は今後、どう対応しようとするのだろうか…。

必ずしもその内実を知る立場にない外野席の筆者としては、ここで探偵小説の作者にでもなったつもりで、米国のマスコミやアメリカ人専門家の解説に、自分なりの憶測を加えて、大まかな戦略シナリオらしきものを描き出して見たいと思うのだ。

 

これまでバイデン陣営は、トランプを巡る共和党側の候補者同士のやり取りを、自分たちには関わりのない、他党内の争いであると静観を決め込んでいた。

そんな立場からは、トランプの、数多くの裁判案件にも、ノー・コメントを決め込み、トランプがそれら訴訟を、「自分を対象にした、バイデン政権の魔女狩りだ」と批判しても、柳に風と聞き流していた。下手に反論などしようものなら、反ってトランプを利すると判断したからだ。

つまり、トランプが何か言えば、それが直ぐにマスコミに流れる、そんな風潮を断ち切りたかったのだ。言い換えると、バイデン陣営のその姿勢は、「トランプは既に過去の人物だ」と切り捨てるもので、それらをフォローするマスコミには、「意味のない人物フォローに時間を割くな」の苦情すら申し入れたほど…。

 

だが、トランプ支持率が共和党内候補の範疇を超えて、バイデン・トランプの直接対峙のフレームで語られ始め、しかもその対立構図の中で、トランプが優勢という状況(例えば、最近のNYTとSienna College共同世論調査では、アリゾナ、ジョージア、ミシガン、ネバダ、ペンシルバニアといった、本番選挙で決定的に重要な決戦州で、バイデン大統領はトランプ候補の後塵を拝する結果となった)が出始めると、もはやトランプを無視し続けることも出来なくなってしまう。

勿論、バイデン陣営内には、今なお、いざ両者の対立が不可避となれば、民主党系の有権者は、積極・消極の違いはあっても、本番選挙では、結局は、トランプよりはバイデンを選ぶはず、だとみる向きもある。

しかし、トランプの方も現状、共和党候補の座を手中にすることに専念しており、多くの裁判案件を抱えているという事情もあって、対バイデン相手の本格的な選挙戦を展開するまでには至っていない。だが、事態が進み、両者が本格的に対立する局面が現出するようになれば、トランプのバイデン攻撃が今の比でなくなることは目に見えている。

 

そんな中、バイデン選挙対策陣営が最近、これまでとは違った戦略を取り始めたように見える。それは、来るべき2024年大統領選挙を、バイデンへの信任投票というよりは、「トランプを大統領に帰り咲かせるべきかどうか」の信任投票にしようとするもの。

それ故、バイデン陣営は、少し前までとは逆に、米国の大手マスコミに、もっとトランプの言動を詳細に報じるように要請し始めたとのこと。トランプの言動を知れば知るほど、トランプがいかに民主主義にとって有害かがわかり、中立層有権者の嫌トランプ感情が盛り上がる、との見立てからである。

尤も、この戦略にも弱点がある。それは、既にトランプを見限っている層には、何のアピール力もないこと。彼らは、これ以上、トランプのことを聞きたくもないと思っているし、それとは反対に、一度はトランプを見限ったものの、近年のバイデン政権に不満を高めた層で、そんな反バイデン有権者層にとっては、トランプの過激な言動も、「彼は言っているだけ。実際には、そんな言葉を実行には移さないだろう」と見做しがち(NYT11月21日)だからである。

こうした状況下、一方では、トランプに対する支持の熱量は確実に下がっている、との指摘も散見され始めている。

例えばグーグル・サーチの調べでは、4年前のトランプが現職として、再選を狙っていた頃と比べ、現状、トランプへの有権者の関心は相当程度下がっているとのことだし、CNNの視聴者調査でも、現時点でのトランプのタウン・ミーティング・ニュースへの視聴率は、なお高いとはいうものの、2020年の大統領再選選挙中のトランプの同様なイベントへの視聴率と比べてみると、視聴者の関心の低下は明らかだという(尤も、それこそが現職とそうでない立場の違いであって、特段の視聴者の関心の低下だと断じてしまうべきではないとの指摘もあるが…)

 

ここで、少し脇道にそれた議論を持ち込んでみたい。

それは、直近、共和党のジョンソン下院議長が、これまで民主党のペロシ議長が拒否し、後任の共和党マッケンジー議長が下院建物内での対面閲覧しか認めなかった、2021年1月6日の、トランプに誘導された形での暴徒の連邦議会乱入時の議会内に設置してあった4万時間に及ぶカメラ映像を、一定期間、オンラインで全面公開することに踏み切った件についてである。

民主党からは、トランプ側が難癖を付け,歴史を改ざんすることを許すことになるとの立場からの反対が、共和党穏健派からは、将来の同様な議事堂攻撃があった場合に、公開は建物内部の詳細な情報の外部拡散に繋がるもので、セキュリティー上の懸念から反対の声が出されていた。

ジョンソン議長が、そうした反対論を抑えて、この期に及んで、この収録映像の公開に敢えて踏み切ったのは、大凡次のような理由故だという。

11月初旬、連邦政府の債務上限枠の壁によって、連邦政府が閉鎖される事態を避けるため、同議長が、下院民主党の支持を背景に、自らも属していた党内のFreedom Focusの反対を押し切って、債務上限枠拡大立法を成立させた。その決定に対し、同Focus議員らが強く反発していたが、映像公開は、その反発を宥めるため(同議長は、議長選出馬に臨んで、この画像公開をFreedom Focusの仲間たちに、己への支持と引き換えに、約束していた)だと…。

 

しかし、筆者の見解では、その決定もバイデン選対の、トランプ絡みの詳細情報をもっと社会に流布させるという、上記選挙戦略の変更があったことを知った上でのことではなかっただろうか、と思われるのだ…。ジョンソン議長は、そんなバイデン選対の方針変更を嗅ぎ取って、これまでと違って、民主党側の反対はないと踏んで、債務上限拡大に関しての、己の決断に対しての共和党内身内からの反発を和らげるため、情報公開の分野で、身内の不満を解消する措置をとったのだ。バイデン政権が,当日のトランプの行動を批判の種に使おうと,或は逆に、共和党保守派がトランプ擁護のために使おうと、其れはそれぞれの勝手、下院議長の立場からは、議事運営のスムーズさこそが最優先、というわけだ。

そして、こんな判断にも、ジョンソン議長の、これまでのイメージ(ドグマに凝り固まった右派)と違って、同議長が今やプラグマティックな議会指導者に変貌しつつあることを示しているように思われるのだが…。尤も、その変貌の途は、Freedom Focus所属の議員たちの態度硬化で結構険しそうではあるが…。

ここで問題にしたいのは、この議長の決定が、共和党右派の思惑と異なって、トランプ陣営にとっては不利に働くとの、米国のリスク情報会社ユーラシア・グループの見方がある点だ。

事実、NYT紙の報じるところ(11月23日)では、この画像が公表されるや、共和党右派議員の何人かは、その公開画像の中に連邦政府側の人間が混じって映り込んでおり、彼らが平和裏のデモを扇動に導いたと主張したが、結果は、画像解析の結果、それら連邦政府側と黙された人物が暴徒の一人にすぎなかったことが証明されてしまったり、或いは、日ごろから警察に情報を提供している、犯罪組織の単なる情報源であったことがわかったり等などで、トランプ支持派が主張するような、「陰で連邦政府が糸を引いていた」とは必ずしも言えない実態が逆に明白になってきている。

 

バイデンの選挙陣営は、現状、トランプの言動を徹底して無視する姿勢から,言動を詳細に注視・問題視するする方向へと、明らかに軌道を変えたと思われるが、其れと時期を同じくして、バイデン陣営から流れ出る「トランプ返り咲きは、民主主義社会にとっては危険」のメッセージが、一気に表に流れ始めている。各種世論調査によると、既に米国有権者の4割は、トランプは民主主義にとっては「悪い」候補者だとの認識に至っている(NYT紙11月21日)そうだが、バイデン陣営は,愈々本格的にその点を堀下げようとしているのだ。

 

視点を変えると、米国の有権者は、大きくは性格を異にする2つの課題に対し、相矛盾する態度を示しがちだという。その2つとは、①民主主義や中絶の是非といった価値観に関する質問と、②経済や賃金、物価といった生活の身の回りの諸問題。この2つを別々に突きつけらえると、多くの有権者は民主主義を大事と思い、同時に経済も大事と考える。だが、この2つを同時に突きつけられると、多くは後者を選びがちだとのこと。

そこで思い出すのは,筆者がニューヨークに駐在していたときの、1992年の大統領選挙である。あの時、第一次湾岸戦争でサダム・フセインのクエート侵攻を阻止したブッシュ大統領(父親)は、米国が安全保障という、民主主義の基礎を護った、と本心から思ったはず。

そんな状況で迎えたブッシュ再選の大統領選挙では、ブッシュ陣営は、有権者は当然、民主主義にとっての安全保障上の懸念を払拭し,大勝利を収めた大統領のイラク対策を成功実績として、投票判断の軸にするだろうと期待していた。ところが、実際の選挙の場では、有権者は身近な経済不安の方により大きな関心を寄せ、ブッシュ再選はならなかった。対立陣営だった民主党のクリントン・アーカンサス知事の陣営が、It’s economy stupid(所詮は経済なんだよ)のスローガンの下、有権者の経済不安感を煽った戦術が成功したわけだ。当時、経済は既に回復の途を歩み始めていたのだが、有権者には未だ、その実感を得られず、亦、少しばかりの経済回復は、高所得層のみを富ませ、貧者には恩恵が回ってこないと感じ、それが選挙による現職大統領敗退の結果をもたらしたのだった。

そして今回も、バイデノミクスによって、米国経済は回復したものの、其れ故にこそインフレも発生して,そのインフレが有権者の懐を傷めている、そんなムードが米国内に蔓延している。

色々と表面上の議論はあるだろうが、実態は真に、上記の①ウクライナやガザでの民主主義の問題よりも、②国内の人々の懐具合の方に、有権者の関心が行っているわけで、そんな意味では1992年選挙時の再現ではないかと、浅学の筆者は思ってしまうのだ…。

 

そんな危惧にビクつくバイデン陣営から観れば、今年はそれでも未だ良い。だが来年になると、米国経済に減速感がはっきり出てくるのではないか…。そういう目で見ると、今年のクリスマス商戦の成り行きも案じられる。最近の消費動向調査でも、例えば回答者の17%が学生ローンの支払い再開に悩まされていると答えている。賃金上昇率も鈍化し始めている。失業率もやや上昇気味である等など…。

現実には、経済実態は未だ悲観的レベルにまで落ち込んではいない。だが選挙に際しての真の決定要因は、1992年選挙が示すように、実態ではなく有権者のムードなのだ。

そういった意味では、トランプ候補が己の大統領時代の米国経済がバラ色だった話を常に誇張気味に持ち出すのも、バイデノミクスの不成功を強調したい、或いはバイデノミクスの成果を否定することで有権者にグルーミーな気持ちを持たせたい、そうした戦術願望の裏返しなのだ。言い換えると、トランプにとって、今こそが”It’s economy stupid”のスローガンを打ち出すときだと映っているのだ。

 

そして、そうした認識のトランプ側から観れば、バイデン陣営がトランプ候補を民主主義の敵視化する,そんな戦術は絶対に容認出来ない。有権者の関心を,あくまでも経済や物価に釘付けにしておきたいからだ。

だからこそ、バイデン陣営がトランプ候補を民主主義にとって悪と決めつける様を肌で感じ、其れへの対抗論として、「むしろバイデンこそが米国民主主義を破壊させる元凶、彼の政治は汚染にまみれ、米国社会を戦争に引きずり込む」と批判し返すのだ(NYT紙12月2日)。つまり、バイデン陣営が取り上げる、トランプは民主主義の敵だとの、同じ脅威観をそっくりそのままバイデン候補に投げ返すのだ。そうすれば、トランプへの有権者の脅威観を、バイデンへの同種の脅威観を創り上げることで、相殺は仕切れぬまでも、幾分かは減殺出来ることにもなるはずだ。トランプは恐らく,そのように考えているのだ。

加えて、トランプ候補のレトリックには,常に脅しの要素が混入されている。

例えば,アイオワ州内での最近の演説にはこんなものもあった。「2024年の選挙が終わったら、次の3都市での選挙結果を見ればよい」と述べ、黒人居住者の多いデトロイト、フィラデルフィア、アトランタを挙げ、次のように言葉を繋いだ。「これら諸都市を見れば、吾々はまるで第三世界に住んでいるかと見間違えるだろう」と…。

アイオワの自然豊かな農村に住む、それ程豊かではない白人有権者に,そんな米国の、人種の混在した将来像を語れば、どんな気持ちになるだろうか…、それに、そんな大都市の混沌振りをもたらしたのは、民主党のバイデンだと聞かされれば…」。

この演説の場でトランプ候補は亦、共和党内で挑戦を続けるデサントス候補を非難、彼を支持することを明白にした、共和党のキム・レイノルズ知事を槍玉に挙げた。曰く「貴方たちの選んだ知事こそが,今や問題の種なのだ…。彼女への人気は,私が大統領になれば凋落するだろう」

 

これまでの多くの世論調査は、

  1. 有権者の4割がトランプ候補を嫌っている。彼の思考を民主主義にとって悪いものだと認識している。
  2. バイデン大統領が高齢故に有権者からは敬遠されている。若者の支持が弱いこと、マイノリティーからの支持も強固ではないことなど、様々な問題点を抱えていることも判明している。
  3. さらに、最近の連邦最高裁判決(中絶、学生ローン免除などへの)が、有権者、とりわけ女性有権者の間で如何に不評であるかも、明らかになっている。
  4. 今のところ、米国経済は、トランプ支持者が頭に描いているほど落ち込んではいない,むしろ相対尺度で見れば、経済の実態は良いこと。

 

だから、有権者の間に見られる、上述の①~④の諸難点を、己の有利な方にイメージ変換出来れば、バイデン候補はトランプ候補を凌駕することが可能になるはずだ。

バイデンの選挙対策陣営は、今、こうした課題に全速力で取り組み始めている。前述のような、「トランプは民衆の敵イメージの構築」、「若者やマイノリティー支持の強化に向けた対策」、「人工中絶問題を争点に仕上げる努力」、「米国経済の実態を周知させるための教宣」等など。

そして、そうした努力には、2028年大統領選挙に虎視眈々と出馬を狙う上記カリフォルニア州のニューサム知事や、或はウイットマー・ミシガン州知事、或はブリッカー・イリノイ州知事など、多種多様な民主党系知事を使う手も残されている。

最後に一点、民主党が今一番気にしているのが、民主党からバイデン選出への異議を申し立て、第3党を結成して大統領選挙に出馬する動き。ロバート・ケネディーやジョー・マンチン上院議員などが,そんな警戒の眼で注視されている。先の1992年大統領選挙でも、テキサスの大富豪ロス・ペローが第三党から出馬、ブッシュ大統領から共和党票の多くを奪い,其れがブッシュ惜敗の原因になったのだから…。

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