鷲尾レポート

  • 2024.04.22

20世紀初頭と現在、110余年の時空を超えて、米国大統領選挙を見比べれば・・・~試論、2024年大統領選挙の歴史的意義づけ~

4年に一度の米国大統領選挙は、その間に社会にどのような変化が生じたかを映し出す鏡のようなもの。
米国社会は人種・宗教等が多彩で、一昔前は“人種のるつぼ”と称されたが、余りにも異質の要素が大きい故に、人口センサス作成を担う商務省自らが、“るつぼ”の表現では収まりきれぬとみてか、1990年代央には、自国の社会を“サラダ・ボール”、延いては、“パッチワーク”と称する程にまで、社会構成の多様性を強調せざるを得なくなっていた。これは、異なる野菜、例えばキュウリやトマト、さらにはレタスやにんじん等々、一つ一つが違っても、それらを細かく切り刻んで皿に盛れば、即それがサラダだと言うようなもの。

それ故、社会を律する法律制定などの政治行動では、各集団一つ一つを取れば少数派だが、それらが大同団結出来るテーマを旗印に据えれば、“政治的に勝てる”道理。波乗りサーファーの如く、適切な大波(スローガン)を見つけて、それにいち早く飛び乗り、利害関係グループを団結させる。そんな少数派大連合形成こそが米国政治の要諦だとされた。ところが今回の2024年の大統領選挙では、後述のように、その種の通説が必ずしも通用しない雲行きとなっている。

歴史を遡れば、1776年の独立宣言発布以降、米国の歴代指導者達は旧大陸(欧州)と距離を置く立場に拘り続けてきた。1796年、自らの任期が切れる直前、初代大統領ワシントンは、自らの三選不出馬宣言と共に、以下のような国民への告別の辞を発している。

「・・・旧大陸諸国は、しばしば相互の争いに巻き込まれている・・・そうした集合離散の争いに巻き込まれるのは、米国にとって良いことではない・・・我々の隔絶した位置は、欧州とは異なった途を取ることを許し、可能にしてくれる・・・何故我々は、かような特有の地位、自国に有利な立場を捨て、外の世界に乗り出す必要があるのか・・・」。

このような立て籠もり思想は、建国直後の脆弱性が目立つ米国では、独立戦争を共に戦った建国の父達に共通のものとなっており、そうした共通認識が、外の世界の対立に巻き込まれるよりは、国力を内なる世界の開発や力の滋養に注ぐべきだとのプライオリティーの設定となり、それが延いては、第五代大統領モンローの孤立主義外交原則宣言へと繋がってゆくことになる。

勿論、そうした孤立主義を遵守する立場に縛られながらも、内陸部開発や産業発展による国力の蓄積が進めば、その増大した力を使って近隣を圧するようになるのは、一国の政治エネルギーの発露としては当然のことだろう。19世紀後半の米国も、産業革命を経て経済力が増して行く過程で、基本的には、欧州大陸への不介入という伝統的原則を蹈襲しながらも、裏庭の中南米や欧州の力が相対的に希有な太平洋へは、ゆっくりと、しかし確実に影響圏を拡げ始めたのだった。

そんな1912年、折から実施された米国大統領選挙で、2024年の今回選挙に観られるような現職対前職、それに新人の三人の大統領候補の激突が発生する。現職タフト大統領と前職セオドア・ローズベルトの二人が、共和党候補の座を巡って激しく争い、民主党新顔ウッドロー・ウイルソンがそれに絡む構図であった。

結果は、共和党候補は現職のタフト大統領に決まったのだが、党内争いで敗れたローズベルトは第三党を創設して、大統領選挙戦に残ることになる。そして、この共和党内の分裂が、民主党新人ウイルソンの大統領当選という結果をもたらすのだが、そのウイルソンは大統領選挙の対立軸の一つに、前職ローズベルト、現職タフトという、共和党大統領時代からの、米国の裏庭・中南米諸国向けの棍棒外交を強く批判、自らの外交を“海外諸国での民主主義育成”という理念に基づく”宣教師外交”だと称し、少なくともこれまでの共和党大統領の艦砲外交とは異なったレトリックで、己の外交姿勢を有権者に売り込んだのだった。

その直後、1914年7月、第一次世界大戦が勃発する。だが、第一期ウイルソン・ホワイトハウスは、欧州の戦火を眼前にしながら、米国はあくまでも中立を護るという、従来からの伝統的孤立主義の立場に固執した。自らの再選選挙を目前に、欧州での戦争に巻き込まれることを嫌う有権者に配慮せざるをえなかったからである。

他方、欧州戦線で戦う英国・フランス・ロシア陣営、対するドイツ、オーストリア・イタリア陣営の双方共が、新大陸米国を自陣営に引き入れようと努力し始める。言い換えると、米国は知らぬ間に、それまでの旧大陸政治においてバランサーとして機能していた英国の役割に取って代わり、旧大陸2陣営の双方から、バランサー役を果たす国と見做されるようになっていたわけだ。それだけ国力が高まっていたのだ。

民主党ウイルソン大統領が、欧州での戦災の激化と拡がりに、英・仏・露側の強い要請を受け、国内世論の反対を押し切って参戦したのは1916年の大統領選挙で再選を果たした後のことだった。勿論、その米国参戦の背景には、米国を引っ張り込むための、したたかな英国外交があり、亦、映画“エニグマ”が描き出したような、後年のコンピューターに繋がる科学技術を使った情報戦もあった。
 いずれにせよ、この参戦は、米国外交がこれまで蹈襲してきた孤立主義を脱ぎ捨て、国際関係コミットへと大きく転換したという、歴史的意義を持つもの。そして、参戦したウイルソン大統領が、1918年、14か条の平和原則を提案、それがパリ講和条約の開催へと結びつくわけだが、ここでは、そうした米国の対外姿勢の方向転換が、内発的な経済力の強まりに背中を押されたものであり、欧州各国が、その米国の力を認めた結果でもあるということ、更には、ウイルソンの背骨には、“民主主義を広める”という、宣教師的使命感が在ったことだけを付記しておきたい。

そして今回、2024年大統領選挙でも、110余年ぶりに、前職と現職大統領の激突が再現されている。勿論、再現と言っても、全く同じ構図ではない。1912年の場合には共和党内での、そして今回2024年の場合には(共和・民主といった)政党を違えての、前職と現職との激突であり、今回の第三党候補、例えばロバート・ケネディーJR出馬の選挙戦への影響度も、当時のセオドア・ローズベルトのそれの大きさと比べると、とても比較にはならないだろうが・・・

***今回、ロバート・ケネディーJRも、直近、遂に副大統領候補:Nicole Shanahanを発掘した。シャナハンは余り知られていないが、大金持ちだとのこと。その財力を使って、ケネディー・シャナハン・チームが、幾つかの激戦州で、当該州での正副大統領候補として認められるのに必要な推薦人数(各州毎に要件は異なる)を集められることは確実。このケネディー・シャナハン・チームが、バイデンとトランプ、どちらの陣営の票を多く奪うか、それも一つの見処である。(バイデンの陣営にとっては、知名度抜群のロバート・ケネディーの息子という、ケネディーJRチームの候補者登録は、どう考えても不利に働く材料ではないだろうか・・・)

唯、そうはいっても1912年と今回2024年とでは、米国の対外姿勢を巡っての争点に大きな違いがある。前回は挑戦者ウイルソンが、外部世界での“民主主義の育成”を外交、とりわけ裏庭向け外交の大義名分としたのに対し、今回は挑戦者トランプとその支持者達は、“MAGA: Make America Great Again”を名分としている。そのトランプの姿勢は、理屈上では、米国の内政重視、経済再生重視となるはずで、謂わば、対外姿勢に関しては、“内に籠もる先祖帰りの色合い”が濃いように思われるからだ。

少し単純化した言い方をすれば、1912年、とりわけ1916年当時は、米国有権者の大半が「汚れた欧州政治から、離れて閉じ籠もっていたい派」だったのを、ウイルソンが「汚れた世界を、己に似た姿に変えたい派」として、渋る有権者を、或る意味無理矢理に方向転換させたのだが、今回2024年のトランプの米国第一主義は、「汚れた国際政治から離れて、むしろ国内に閉じこもっておりたい派」への復帰を指向している、とも見えるわけだ。そうした復古調の動きに対し、現職バイデンは、“民主主義世界の指導者”という立場を強調し、必死に抵抗している、というのが今の対立構図のように見えてこよう・・・。

そして、こうした流れの逆転は、①ライバル中国などに比しての、米国の力の相対的減退と、②米国社会の基底に、今までの政治を規定していた人種や宗教、地域性などといった要素よりももっと大きな影響力を持ち始めた、各階層共通の“所得格差の不可逆的な拡大”があり、その結果としての社会分断の定着があるわけだ。

では、米国内の所得格差の拡大は、何時の頃から顕在化したのか。私見では、それは1980年代初頭のレーガン革命の頃ではないかと推察している。
レーガノミックスによって、米国経済はサービス・金融化に大きく舵を切り、小さな政府のスローガンの下、政府規制が大幅に緩和され、減税が施行され、税制の累進制が大幅に緩和された。例えば、レーガン大統領誕生直前の、米国の高所得層(夫婦)への課税税率は70%だった。ところがレーガン統治時代を通じ、その最高税率は38~39%にまで大きく下げられている。この税率低減と、最高税率適用所得水準そのものの引き下げとが相俟って、高所得層に負荷される連邦税が大幅に引き下げられたこと、疑問の余地はあるまい。

そして、こうして実現してしまった、社会分断を元に戻すには、裕福層への課税を高め、税制に累進制を取り戻すしかないと思うのだが、その道は、今や政治的には遠く険しいだろう。今回選挙に際しても、バイデン大統領は高所得層への増税を掲げているが、高所得層への気兼ねが透けて見えるような、腰の引けたアプローチに留まっている。

いずれにせよ、レーガノミクスによって、経済の金融化は大きく進み、そうした客観条件の変化を受け、米国経済は新自由主義・株式資本主義を満喫、持てる者は益々富む、謂わば、所得格差拡大本格化の時代に入る。そしてそれが、反面で金融商品組成の複雑化を産み出し、サブプライムローン危機、つまりはリーマン・ショックを呼び起こす。

しかし、その対処として、連邦政府が財政資金を広く散布したことで、市中には流動性過剰が常態となり、しかもそうした事態が是正されないまま、次なるコロナ危機を迎えてしまう。結果は一層の財政資金の市中散布であり、世界的規模での過剰流動性の顕在化で、それが直近の世界的株高の基盤となった。

こうした中、米国内の政党支持基盤にも大きな変化が芽生え始める。
先ずは民主党基盤の軟弱化である。NYT紙の報道によると、2022年中間選挙時点での政党支持率は、民主党が49%、共和党が48%だった(同紙2024年4月10日付け)。2008年のオバマ当選時には、その比率が民主党60%、共和党40%だったらしいが、オバマという黒人候補が出ていた選挙だという特殊性、更には、2022年の選挙が投票率の下がる中間選挙だったという事情があったにせよ、世論調査が示す、この十数年間の民主党基盤の軟弱化は否定しようがない。

2024年の今回選挙で、バイデンは、その高齢と妥協指向の政治姿勢故、民主党支持の有権者からの不支持率も高く、加えて、コロナ後の経済運営が他の諸国よりは上手く言っているにもかかわらず、肝心の米国内有権者からの評価は、極めて厳しいものがあるのが実態。
何故そんなに有権者はバイデンに辛辣なのか・・・。
思うに、米国経済が1970年代末以降、インフレを経験しておらず、有権者の大半にとって、コロナ後の物価上昇が、恐らく生涯最大の物価高と実感されているからなのではあるまいか。そして、何と言っても、食品や家賃、そしてガソリン価格の値上げが痛い。

しかも、それら分野での値上がりの原因が、ウクライナ戦争の余波であり、更に家賃も、米国の場合、日本のように入居者の権利が家主の権利よりも強い国ではないので、家主は何かあれば直ぐに家賃を上げてくる。そうした値上げが、積もり積もって、有権者の財布の傷みとなり、バイデン政策批判に繋がってくるわけで、そうであれば、バイデン大統領にとって極めて不公平な扱いではないかと、バイデン贔屓の筆者としては、弁解の一つも言ってやりたくなってしまう。

一方、トランプ前大統領の方も、叩けば埃が一杯出るような状態。
抱え込んだ刑事訴訟案件は4件、その罪状は合計92件。最も早いポルノ女優(ストーミー・ダニエルズ)への口止め料案件の裁判(罪状34件)は、3月3日に裁判起訴され、4月15日から裁判が始まっている。ちなみに、政府機密文書関連は2023年6月起訴:罪状40件、連邦議会議事堂襲撃事件は2023年8月起訴:罪状4件、ジョージア州での大統領選挙戦介入事件は2023年8月起訴:罪状10件で、これらの案件はいずれもトランプ弁護団が異議を申し立て、公判を延期させることに成功している。

公判延期戦術の眼目は、11月5日の選挙まで、公判開始を延ばすこと。そう出来れば、大統領当選後、トランプは自らを免責出来るはずだと・・・。もっとも、その免責可能性については、リベラルな専門家の中には否定的見解を表明する向きもあるようだが、保守派判事が過半を制する今の連邦最高裁では、そんなリベラル派の法律解釈論は恐らく通用しないだろう・・・。

最初に開始され、おそらくは11月まで審理が粛々と進むと想定される、上記口止め料案件の裁判は、リベラルな陪審員の多いニューヨークで行なわれ、しかも裁判継続中は、被告人トランプは、常時、裁判に出廷しなければならず、結果、選挙運動のための時間がかなり束縛されてしまう。
亦、上記一連の裁判費用も巨額に上り、トランプの選挙資金のかなりの部分を食い尽くしている模様。つまり、これから本格化する選挙コストの増大を考えれば、資金面でのトランプの不利化は、益々避けられないのが実態と言って良かろう。

そして恐らくは、そうした資金不足も一つの理由となって、トランプは共和党のPresumptive Candidateとなって以降、共和党全国委員会の顔ぶれを一新する措置を講じ、同委員長の首を挿げ替え、自らの息子の嫁を同委員会の共同委員長に送り込み、亦、スタッフの総入れ替えに近い荒行事を実行する等、党の資金と組織を乗っ取るような行動に走っているが、こうした共和党組織を揺さぶる行動が亦、激戦州での草の根ベースでの共和党の取り組みを遅らせる結果ともなっている。更に、自らの選挙が中心で、同時に行なわれる上下議会議員たちの選挙の隅々にまで、党組織の関心を振り向け続けていられるか、そんな点にも外野席の観察者としては、関心を向けておかねばなるまい(現状、上院では、今回改選数の多い民主党が過半を割るのではとの推測。反面、下院では民主党が過半を取り戻すのではとの推測)

では、そんな各面で、欠陥の多さが目立つトランプへの支持が、何故そんなに強く、硬いのか・・・。
答えは、トランプが1916年の選挙で大統領当選を果たした直後から、自分を支持してくれた、トランプ陣営のレトリックで言う、“忘れ去られた人々:Forgotten People”に寄り添い続けてきた事実にある。

トランプは、選挙公約を忠実に守り、彼らを窮地に追いやった中国製造業の脅威に対し、大幅な対中関税賦課などを通じ、彼ら中西部製造業労働者の職を護ってきた。そして、その彼らが、長年の間に益々強固なトランプの岩盤支持層に成長してきたというわけだ。
しかも、彼らトランプ支持者達の多くは、元はと言えば民主党の支持基盤に属していた有権者達、つまり、これまで共和党が手をつけることの出来なかった層に属する。その彼らを、トランプは自らの支持者として、共和党に連れてきたのだ。

加えて、トランプの岩盤支持層は、その存在自体が、二つの社会作用によって、益々大きく、強固になってきた経緯がある。少しく詳しく説明しておこう。
最初の効果は、“Tipping Point”(確信犯の言動が、社会における多数派形成に大きな影響を与える)である。「自分の意見を譲らない確信者と、他人の意見に影響を受ける不動票者・・・、確信者が社会の25~30%超に増えた瞬間、不動票者の大半が確信者の意見に同調するように、己の意見を変える」。それは恰も、マッチを擦った瞬間、火がぱっと発生するのに似た現象。まして、それら浮動票者が、保守系メディアやSNSを使っていると、効果は抜群(SNSに慣れ親しんでいると、自分に興味あるニュースや記事・ゴシップが自然に集まって来て、知らず知らずにそれらの影響を受けてしまう)。

もう一つは、複雑系の社会現象内に観られる、Mode-Locking効果(当初は相互に関係ない諸現象【所得格差への不満、住環境への不満、或は就職が上手く行かなかった不満等々】が、幾つかの過程を経ていると、同じリズムに共振するようになる)。つまり、同じ壁に掛けている異なった振れ方の振り子時計が、何時とはなしに共振するようになる現象である。こうした二つの社会現象によって、当初30%台だったトランプ支持層が、いつの間にか40%台半ばにまで、その規模を増殖してきたのだ。

そして、このトランプ随伴の、“新たな共和党支持層”は、選挙に臨む共和党の連邦議会の議員達にとっては、喉から手が出そうなほどに欲しい有権者層。だから議員達は、“トランプ教”の岩盤支持層が、教祖トランプの号令一下、こぞって自分たちをも支持してくれることを期待して、自らトランプ教の信奉者に成り下がる。かくして共和党は、あっというまにトランプ党へと変質してしまったというわけだ。

以上要するに、2024年選挙では、民主・共和両党とも、不支持率の多い、逆に言えば、癖や欠点の多い、或は嫌悪感を持たれる、弱い大統領候補を頂く形になっており、その両者に不信感を持つ、“double haters”の票を、結果としてどちらの陣営がより多く確保するかが、皮肉な言い方をすれば、勝負を決める要素となる。

再び眼を、110余年のスパンの、歴史的視点に戻してみよう。

2016年、トランプが大統領に当選した年、ロンドン・エコノミスト誌は「トランプ勝利は、国際政治における米国の行動予見性を大きく損なうだろう」とコメント、これまで米国が果たしてきた、世界秩序の保護者としての役割は大きく変質し、今後はむしろ、「トランプの米国は、世界秩序の不安定化要因になるかもしれない」と指摘した。そして、「何故、米国はそうなったか」と自問、「そうした事態の背後には、既得権益で縛られている、既存政治の転換を求める米国有権者の願望があるからだ」と自答した(同誌2016年11月12日)。

その後、2020年、今度は民主党バイデンがトランプを破ったとき、英国のファイナンシャル・タイムズは「バイデン新大統領が経済を建て直し、ワクチンを普及させ、社会の分断を修復させることが出来れば、この20年間の間に徐々に進んだ米国への信頼低下を食い止められる・・・逆にバイデンがつまずけば、中国の強大化は必然とされ、専制国家ではないが民主主義体制でもない国々は、専制国家こそが勝者だと考えるようになるかもしれない・・・これからの数年が、「欧米の過渡期だった」と位置づけられるようになるか、或は、「一時的な停滞期だった」と見做されるかは、バイデン大統領の手腕にかかっている」と指摘した(同紙2021年1月25日)

そして今回の2024年選挙に際し、ニューヨーク・タイムズ紙は「バイデン大統領は、近年には例が無いほどの立法成果を挙げているが、その実績を認められない立場に置かれたままだ」と報じている。(同紙2024年3月28日)。

こうした欧米メディア論評の延長線上で、筆者として、今回2024年選挙の意義を記そうとすると、それは上記ファイナンシャル・タイムズ紙2021年1月25日の記事が提起した問題、「これからの数年が、欧米の過渡期だったか、一時的な停滞期だったかどうか」への答えを、結局バイデンは4年間では出せず、欧州が期待するように、「トランプ現象を米国の一時的な停滞期特有な現象」に終わらせるためには、「バイデンに、もう4年の時間が必要になってきたのだが、その4年が与えられるかどうかこそが、今回選挙の意義になる」、とでもなるのではないか・・・。

最後に、選挙戦の現況を極簡単に列挙して、本稿を終わることにする(詳細を書き始めると切りがないので・・・)。

  1. トランプには岩盤支持基盤とその上乗せ支持層が、バイデンには民主党の基盤支持層とトランプ嫌いの有権者がついており、それらは、双方45%±4%の中で変動。
  2. 世論調査で、直近、僅かだがバイデンに盛り返しの兆候。この2月末にはトランプ支持率48%、バイデン支持率43%だったが、3月のバイデン大統領の一般教書演説やトランプ前大統領の裁判開始の影響などで、4月初旬の調査では、トランプ支持率47%、バイデン支持率46%に・・・(NYT/Siena Poll: Biden Shrinks Trump’s edge NYT4月13日)
  3. しかし、州毎の大統領選挙人獲得可能性の観点から試算すると、未だトランプ優勢の見方が有力・・・While polls show the race for President is tightening, Joe Biden still has a narrower and challenging path to winning the election than Donald Trump. The reason is the Electoral College…大統領当選には、選挙人Electoral College270名が必要、現状のバイデンの予想獲得数が226人、トランプが219人、しかし、下記激戦7州での現時点での世論調査を基にすると、最終選挙人獲得予想数で、依然としてトランプが優勢だとのこと。

    ・・・three industrial states–Michigan, Pennsylvania, and Wisconsin—and four Sun Belt states—Arizona, Georgia, Nevada, and North Carolina
    ・・・Mr. Biden’s declining popularity in the Sun Belt states is the main reason. Mr. Trump has an edge right now… Biden is especially struggling with young and nonwhite voters there…
    ・・・the key to Mr. Biden’s victory is to perform well in the three industrial states, If Trump can win one or more of Pennsylvania. Michigan, and Wisconsin. Mr. Biden’s path to 270
    electoral voters become even narrower… If Mr. Trump and Mr. Biden remain ahead in the states where they are currently strongest, the outcome of the election could come down to who wins Michigan and the two Sun Belt states where abortion will very likely be on the ballot, Arizona, and Nevada (以上いずれもNYT4月17日)

  4. 現時点の選挙資金:バイデン陣営はトランプ陣営の倍以上を保有。7月の共和党大会、8月の民主党大会後、本格化するメディア広告戦では、恐らくバイデンが圧倒的に有利。
  5. 第二次トランプ政権実現の暁に、手許教本にされると思われる、保守派ヘリテージ財団作成のProject 2025 Report(Mandate for Leadership)
    内容は、保護主義の進め、Federal Reserve の権限縮小、バイデン大統領が無効化したトランプ発布の大統領令の即時復活、連邦政府公務員の大規模入れ替え、ビジネス活動を規制する州政府権限の強化等々、要は、ハンガリーのオルバン首相の先例を研究しろと・・・(NYT 2024年3月7日:Project 2025 is a direct copy what Orban did in 2020)そういえば直近、オルバン首相がフロリダのトランプ別荘を訪問したばかり・・・。

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