鷲尾レポート

  • 2024.06.13

東経35~36度線に沿った政治活断層、欧州とユーラシアを東西に分断~ウクライナとイスラエルを巡る地政学試論~

“From Stettin in the Baltic to Trieste in the Adriatic, an iron curtain has descended across the Continent. Behind that line lie all the capitals of the ancient states of Central and Eastern Europe…All these famous cities and the populations around them lie in what I must call the Soviet Sphere…”

チャーチルが、この演説を行なったのは、第二次大戦の戦禍も覚めやらぬ、1946年5月のこと。旧ソ連の教科書では、東西冷戦はこの演説から始まったとされる。

そしてそれから53年後、1989年11月、ベルリンの壁が崩壊し、米国一強の世界が誕生したが、しかし、それも今や昔のこと。

2024年の現在、世界は冷戦ならぬ、ウクライナ・ロシア間、並びにイスラエル・ハマス間での熱戦で、それぞれの当事者が事前に何処まで意図したかは分らないが、一度戦端を開いてしまえば「敵の敵は味方」の戦争鉄則が貫徹され、チャーチル流に表現すれば、今や地球儀上の東経35~36度線に沿って、北は北極海から南は地中海に至る、欧州とユーラシアを東西に分ける国際対立が再び発生するに至っている。

北部で発生したロシア・ウクライナ戦争は、ウクライナの劣勢の下、NATOのウクライナへの更なる梃子入れを必然化している。対して、南部で発生したイスラエルとシリア・イラン、或はイスラエルとエジプトとの関係緊迫化も、取り扱いを間違えると、イスラエルにとっては、鬼門とも言うべき、2正面での戦闘波及へとヒートアップしかねない。

そして、その南北いずれの戦争の背後にも、ロシア・グループと米国グループが着いていることは間違いない。つまり、今回の東西陣営対立の一方の極がロシアであり、他方の極が米国である構図そのものは、冷戦時代と変わっていない。

しかし、双方の力の絶対性においては、両者とも陣営内における立場を大幅に弱化させている。冷戦時には、自由遵奉と資本主義の総本山としての米国、対峙する共産主義と計画経済の本家としてのソ連(当時)、それぞれが陣営内で絶対的位置を占めていた。

ところが今や、北部での戦争当事者のロシアは、経済力では同一陣営内の中国に圧倒的に凌駕され、何としても中国を己の側から離れさせない、そんな悪女の深情け的立場に陥っているようだし、一方の米国も、西側陣営の中では、同輩中の主座に近い位置づけとなり、今や、同盟国を糾合して事に当らざるを得ない立場を、身に染みて感じ取っている。

そして、この東経35~36度線に沿った、いわば政治的活断層の根底には、少なくとも以下の4つの要素が色濃く漂っている。

それら4つとは、①従来型の地政学と、その具体的表現である米欧対中ロの対立構図、②その結果としての、欧州勢力とユーラシア勢力の実質境界線の再設定、③中東内における、イスラエルの自称“第2次独立戦争”、こうした状況下、④漁夫の利を得るかの如きグロ-バル・サウスの政治的台頭。

***上記以外に、a)北と南の両方の戦闘で、ドローンやロボット兵士が大量投入される危険、b)どこかの時点で、一部当事国が核を使用するかもしれない脅威。そうした間隙を縫って、c)テロが欧州やロシア国内に拡散する可能性、更には、d)石油や穀物などの世界交易ルートの混乱等々も想定される。しかしそれらは、今問題としている地政学的な地殻変動とは次元を異にする現象であり、本稿では敢えて立入らない。

先ずは①について・・・。

現状、北方の戦闘での直接の当事国ロシア、南方の戦闘での直接の当事国イスラエル、それらの国に対し、恐らくは自制を説きながら、結局は、ロシアに引っ張られる中国、イスラエルに引っ張られる米国、という構図が実態だろう。

もう少し深掘りすれば、ロシア、延いてはプーチン大統領がそもそも、対ウクライナ戦端を開いたのは、ロシア特有の戦略思想故であった。
周知の如くロシアは、NATOの勢力が自身の西境に近接してくることに脅威を感じており、自身とNATOの間に、ある種の緩衝地帯を置くことを、最大の外交目標としていた。

処が、ウクライナのマイダン革命によって、同国は一挙に西側に身を置く姿勢に傾斜し、その姿勢が国際的に認知されてしまえば、NATOの脅威がロシア西境に及ぶのは必至。そうした事態ともなれば、「政治家は自らの信条体系というプリズムを通じて、己を取り巻く内外環境を認識し、自らの政策を創る」(「プーチン、その人間的考察」木村汎著)、そんなスタイルのプーチン大統領にとっては、自身の指導者としての役割を己自身で全否定しなければならなくなる。つまり、ウクライナの離反は、ロシアの安全保障確保を至上課題とするプーチンにとっては、己に役割放棄を迫る、決して容認できない、出来事だったのだ。

しかし、皮肉なことに、ベルリンの壁崩壊が、そうしたプーチン自身の外交目標追求を、困難なものにしてしまっていた。つまり、ソ連崩壊は、共産圏が西側との経済競争に敗れたためであり、それ故。今後、自国が経済的に繁栄するためには、自由市場の中心と密接な関係が不可欠と考える旧東欧諸国が多くなり、そして万が一、己がロシアの勢力圏から離れた場合、ロシアがそんな離反国に、逆に牙を剥く危険を、誰よりも、離反国自身が熟知している。だから、己の安全を保障するため、EUの一員に身を置き替え、出来ればNATOの防壁の中に身を隠したいと念じるようになる。1990年代の拡大EUとNATO加盟国の増加は、そんな東欧諸国の熱望に裏打ちされたものだった。

しかし、国境線を直接接しないポーランドやチェコが、そうした立場を取っても、ロシアとしては、最悪我慢すれば良いだけの話しかもしれなかったが、直接国境を接し、そもそものソ連建国の際の兄弟国ウクライナが、そのような姿勢を取ることは、プーチンにとって我慢の限界を超える仕打ちだった。だからこそ、ウクライナが実際にそうなってしまわないよう、2014年、ロシアは早々とクリミア併合を実現させたのだ。

併合に際し、プーチン大統領は次の様に述べている。「ロシアはウクライナの分割を望まず、これ以上の領土的野心はない」、しかし、「ロシアは今後も、ウクライナに定住するロシア人、ロシア語を話す人々の利益を護る」と・・・。

次いで②に関して・・・。

東経35~36度線を北から南に見て行くと、フィンランドやバルト3国は西側に、ロシアのモスクワやセント・ペテルスブルグは辛うじて東側に、そしてウクライナは東部のかなりがロシア側に組み込まれる地理となっている。

ロシアが、ウクライナ領への侵攻目的を全土の占有のためではないとし、あくまでもロシア領の安全保全のための東部侵攻だと主張しているのも、或は、ウクライナが反攻のターゲットとして、黒海沿岸のクリミア半島(この東経線の西側に位置する)に拘り始めているのも、明言はないものの、この東経35~36度線の、万が一の将来的意義づけを勘案したものの様に、筆者には思えて仕方がない(先例としての、朝鮮半島の休戦ラインのように・・・)。

同じような単純思考からすれば、ロシアが殊更必要以上に、身近に引き寄せようとしているベラルーシが、実はこの東経線上の西に位置しており、放っておけば、西側に取り込まれかねない地理的位置にあるのも、極めて意味深ではないだろうか・・・。

この東経35~36度線は、トルコを南北に切断し、地中海のイスラエルに至る。

そして地中海に面する国で、ロシアと同盟関係にあるのは、嘗てはエジプト、リビア、チュニジア、アルジェリアなど結構あったが、今ではシリア一国のみ(シリアは、この東経線を跨ぐが、その領土の大半は東側に位置している)。

だからロシアは、黒海におけるクリミア半島、地中海におけるシリアの港(タルトース軍港)や空港(ラタキア空軍基地)を、どうしても確保し続けておきたいのだ。

そして、そのシリアは、東の隣国イラクへの牽制の意味合いからも、イラクの東隣イランと良好な関係を維持し続けている。そして、そのイランとロシアが亦、極めて密接な関係にあるというわけだ。

イランは、ロシアに自国製のドローンを大量に供給し、そのドローンがウクライナ攻撃に多用されたのは周知の事実。一方、ロシアはイランにヘリコプターや防空システムなど、高度な防衛技術を供与する。両国の間には、そんな濃密な軍事協力関係が成立している。更に、イランとロシアの間には、西側金融機関のSWIFTを経由しないで、両国の中央銀行間で直接決済する協定も締約済みである。

そうした状況を、米国の国家安全保障会議のカービー報道官は、2022年12月、「イランは今や、ロシアにとって一番の軍事支援国になった」とコメントした。

一方、そのイランは近年、中国の仲介で、サウジアラビアとの外交関係を正常化している。サウジアラビアが一時、米国バイデン大統領との関係を悪化させていたのは、万人が知るところだろう。要は、米国の影響力が後退する中、中東でロシアや中国の影響力がジワジワと強まっているのだ。そして、こうした中東における米国の影響力退潮が亦、ハマスの奇襲攻撃に対し、イスラエルのネタニエフ首相が、米国に余り相談もせず、単独反攻に走った大きな理由となっている・。

③に話題を移そう(イスラエルの話が射程に入ってきたので・・・)。
イスラエルの位置は東経36度線上にある。
安全保障環境の整備を最大の目標とする、そんな政治信条に突き動かされるという意味では、イスラエルのネタニヤフ首相もロシアのプーチン大統領と同じだろう。

ネタニエフ首相は、2020年、トランプ大統領(当時)の仲介もあって、アラブ首長国連邦、バーレン、スーダン、モロッコといった諸国と一気に国交正常化を果たし、直近では、サウジアラビアやイランとも国交正常化に向け交渉に入っていた。

だから、米国の大統領選挙戦で、自分と肌が合わない現職バイデンが苦戦中の現在、ひょっとして、肌合いが合うトランプが大統領に復帰するかもしれない、そんな希望的観測がネタニエフにあるような気がしてならない。つまり、「あと半年我慢すれば、中東4カ国との国交正常化に力を貸してくれたトランプが米国大統領に復帰する」と・・・(ネタニエフの米国訪問が近づいている。7月27日、共和党主導で、米国議会上下両院での演説も予定されているが、その場で何を訴えるか・・・)。

いずれにせよ、こうしたアラブ諸国のイスラエル接近に、パレスチナ問題解決が取り残されると焦りを感じたハマスが、イスラエル・アラブ諸国間の和睦ムードに水を差す行動に出る。今回のハマスのイスラエル奇襲は、こうした状況下で発生した。

一方、ハマスの手で、無拓のイスラエル市民が大量に人質に取られたとあっては、ネタニエフ首相がここで妙に妥協すると、自身がこれまで進めてきた、安全保障環境構築政策が破綻する可能性に繋がり、どちらに転んでも国内政治的に持たない。

更に亦、ハマスの奇襲攻撃を結果的に容認したような印象を残すと、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラや、イエメンの親イラン武装組織フーシ等が、第二、第三のハマスと化して、イスラエルへの敵対行動を更に激化させる危険性も考慮しなければならない。

従って、ここは奇襲やテロに屈して人質解放交渉に入るのではなく、むしろ逆に強面で対ハマス強硬策をとるにしかず。今回は、一般人を大量に人質に取るといった、そうした無法行為を実践するハマス殲滅の絶好の機会。「大義は我が方にあり・・・」。国の安全保障を、何よりも優先するネタニエフ首相は、恐らくそう考えたはずだ。

処が、力の差が大きすぎた。イスラエルの武力行使に対し、ハマスは抗することが出来ず、圧倒的に押されて、しかもその過程で、パレスチナの多くの一般市民が犠牲になったとすれば、国際社会もイスラエルを支持する声を上げられず、何時とはなしに、イスラエルが国際世論上で孤立する羽目になってしまう。

まして、米国や欧州は選挙の季節、両大陸の政権は、イスラエル支援を有権者に積極的に説得することが出来ず、だから米欧は、即時停戦に拘らざるを得ない。

だが、即時停戦では、イスラエルが企図した、これを機会にハマスの力を徹底的に弱める計画は達成できない。ネタニエフ首相としては、ここは何としても米欧の圧力を跳ね返し、実質上、ハマスに音を上げさせるまで、パレスチナ自治区ガザへの侵攻は止めることは出来ないのだ。ここで止めることは、当初の目的を放棄することになるのだから・・・。

欧米各紙の報道を吟味していると、現在水面下で進行中の、米国とイスラエルの停戦合意案では、両国が想定する時間軸に大きな差があるようだ。米国は早期の停戦合意を目指し、対してイスラエルは、ハマスの軍事能力を破壊しつくすには、停戦まで早くても年内一杯はかかると・・・。こうした時間差にも亦、大統領選挙が近づいているバイデン米大統領と、次期大統領にトランプが再登場する可能性を見極めたいネタニエフ首相の思惑の違いが、如実に出ているではないか・・・。

直近のニュースでは、こうしたネタニエフ首相の、或る意味で硬直的な姿勢に、戦時連立政権を構成していた穏健派野党の党首ガンツ前国防相が6月8日、政権からの離脱を宣言したという。穏健派が戦時内閣から抜け落ちればその分、戦時内閣内で極右派の発言力が強まり、唯でさえ小さい「力ではなく外交による解決を」の声が、一層細々としたものになってしまうのは、何としても皮肉な話だが、それも亦、理屈の行き着くところというべきだろう。そもそもの、今回の反攻の発端が、ネタニエフ首相の「国家の安全が第一。そのためには、何としてでも強面の政策を追求する」との姿勢にあったのだから・・・。

④ウクライナ、パレスチナ、この2つの戦闘の絡みでは、グローバル・サウス諸国の動きにも関心を向けておかねばない。

とはいっても、グローバル・サウスに明確な定義があるわけではない。亦、現状では、それらの国々には、集まって一つの組織機構を創り上げるだけの力量もなさそうである。まして、特定の戦争に関し、一つの声で敵対する両陣営にモノ申す立場を取るとは、現状、とても思えない・・・。

今ここで問題にしている東経線幅に絡めていえば、グロ-バル・サウスの中でも、主関心に据えるべきはアフリカ諸国だろう。東経35~36度線をさらに南下させれば、大半のアフリカ諸国が、その境界線幅を境に、西か東に入ってしまうからである。

国連の予測に依れば、アフリカの人口は2050年には世界人口の4分の1にも達するという。亦、一人当たりGDPの比較では、幾つかのアフリカ諸国は、既にアジア諸国のそれに匹敵するレベルに到達している。例えば、タイと南アの一人当たりGDPは7000ドル近辺でほぼ同額。エジプトとベトナム、インドネシアも、ほぼ4500~5000ドル近辺で同額等々。

そんなアフリカ諸国を、現状、ロシアや中国、或は米国や殴州、更には日本が、それぞれに競って囲み込もうとしている。

もう少し詳しく見て行くと、地域としてのアフリカに、近年、真っ先に取り組んだのは日本だった。日本は1993年、第1回日本アフリカ開発会議(TICAD)を開催、以後着実に協力の芽を積み重ねてきた。

そんな日本独行の事態は、2000年代に入って一変する。米国・欧州・中国、それにロシアが、アフリカとの協力強化を標榜して、支援の熱を上げ始めたからである。そうした支援熱の背景には、次の世紀はアフリカの時代だという、将来予測があったことは想像に難くあるまい。

先ず支援競争に出てきたのは中国だった。2000年10月、第1回中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)を北京で開催する。以後、3年ごとにFACACが開かれ、2021年11月にはセネガルで第8回会合が持たれた。2024年中にも同様の会議が持たれる予定。

そんな中国の進出に危機感を感じたのだろう。嘗てアフリカに多くの植民地を持っていたEUが、この種フォーラム形成のレースに乗り出す。2004年4月、第1回EUアフリカ会議をカイロで開催、その後も開催を積み重ね、直近、第6回会合を2022年2月セネガルで開いている。

ロシアもそうした競争に加わってくる。第1回ロシア・アフリカ首脳会議を2019年10月にロシアのソチで開き、第2回会合をセント・ペテルスブルグで、2023年7月に開催している。

一方の米国も、そうした競争に乗り出さざるを得なくなる。第1回米国アフリカ首脳会議は2014年ワシントンで、そして8年後、第2回は2022年12月に同じくワシントンで開催・・・。

どの国がイニシアティブを取る会合でも、該当する先進国側が、巨額の対アフリカ支援を約束する、そんなパターンが一般化しているようだ。

言い換えると、米国・欧州・ロシア・中国等の、それぞれのアフリカ首脳会議、或は協力会議では、米欧や中ロ側の政治的思惑を知りながら、アフリカ側は、或る意味、“良い処取り”の実利中心的アプローチに終始しているのが実態のようだ。

その一例は、2022年3月の国連総会の場での、ウクライナ侵攻に対するロシア非難決議案への投票行動に如実に表れている。その2年半前の、2019年10月の第1回ロシア・アフリカ首脳会議参加のアフリカ諸国は54カ国。

しかし、国連総会でのロシア批判決議に際し、54カ国中、ロシアが期待した「決議案に反対」票を投じたのは僅かエリトリア1国のみ。肯定も否定もしない、棄権・不参加の態度を取った国は南アなど25カ国。むしろ逆に、決議案に賛成票を投じたのが28カ国・・・。

もっとも、「貰えるものは貰う、しかし、国際社会で己が不利になるような要求には組みしない」、そんなアフリカ諸国の実利中心の態度は、ロシアや中国にとっては先刻折り込み済みのことだっただろう。言い換えると、ロシアや中国の対グローバル・サウスへのアプローチは、それ程単純ではない。むしろ、もっと手が込んでいる。

つまり、ロシアや中国の対アフリカ・アプローチのフレームは単一ではないのだ。そうした典型例として挙げられるのが、グローバル・サウスと同じ様な概念の国々を対象とした、別の枠組み(BRICS会議)の活用である。

***BRICSとは、将来の世界経済を牽引する国々を称して、投資銀行ゴールドマン・サックスのジム・オニールが投資家向けレポートの中で使った造語。ブラジル、ロシア、インド、中国、南アの5カ国を指す。BRICS会議とは、この言葉を冠した首脳会議を、自分たちが含まれることをこれ幸いに、中国がロシア等を語らって組成したもの。

BRICSの第1回首脳会議は、同じレベルの国同士の経済的利益を摺り合わせる目的で、2009年に開催されている。設立時のメンバーはブラジル、ロシア、インド、中国の4カ国。その後、2011年には、首脳会議メンバーに南アが加わり、更に2024年からは、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦が加わっている(その際、アルゼンチンもメンバー入りの予定だったが、同国の後継政権の方針変更で、参加を見送っている)。

要するに、このBRICS首脳会議のメンバーには、アフリカにおけるグローバル・サウスの雄、南アが座を占め、ロシアと中国は勿論、エジプト、イラン、サウジアラビアといった、本稿で記述してきた国々も勢揃い。加えて、ウクライナ戦争以降、ロシアに急接近しているインドもメンバー・・・。逆に言えば、会議の場に米欧の姿が皆無であること・・・。

要は、“グローバル・サウス内の仲間同士の場作り”という意味では、ロシアと中国は一歩も二歩も米欧の先を行っているのだ。2024年のBRICS首脳会議メンバー追加に際し、イランとサウジアラビアを、或る意味セットで受け入れた事実に、中国がこの場を、各種外交アジェンダへの対処(前記の、イランとサウジの外交関係正常化等々)に際し、恐らくは根回し、或は、成果報償の場に活用している、そんな実態が滲み出ているではないか・・・。

そのBRICS会議の場では、南アやエジプト、インドなどは、「ウクライナ戦争は我々の戦争ではない」という姿勢を取っている模様。何故、そんな姿勢を強調できるのか・・・。

それは、この首脳会議にロシアと中国が座を占めているという事実そのものが、米欧対ロシア・中国の対立色が強まる国際政治の中で、逆に、南アやインドなど、グローバル・サウスの代弁者を自認する国々に、自国利益追求の声を公然と挙げさせる余地を産み出しているからだ。つまり、説得される側に自らの身を置けている・・・。

つまりそれは、ロシアと中国が主役の座を取っている会議の場だからこそ出来る、南アやインドの玄人芸だし、エジプトやイラン、サウジアラビアが出席しているからこそ出来る、ウクライナ戦争と中東戦争の切り離しであり、しかもそれは、大局的に見て、グローバル・サウスを米欧から切り離すという意味では、ロシアや中国の戦略意図とも合致しているからこそ可能な芸当なのだ・・・。

そしてそれは亦、中国をして、ウクライナ戦争への独自の和平提案支持に向け、グローバル・サウス諸国の支持を得る根回しの場にもなり得るもの。
6月初旬の段階でのニュースでは、中国がブラジルと共同で作成した、ロシア寄りのウクライナ和平提案への賛同国が、100カ国を超えたとのこと。こうした賛同者掘り起こしにも、当然に、このBRICS会議のフレームや、或は、中国・アフリカ協力フォーラム(FACAC)での付き合いが、ものをいっていること、疑う余地はないではないか・・・。

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