鷲尾レポート

  • 2024.10.25

投票日まで2週間、米国大統領選挙の現状は…(1/5)

直近の情勢(総論)

  1. 僅差、接戦7州の有権者争奪戦。態度未定か或は棄権するであろうと見做される有権者(全有権者の内、精々9%)の囲い込み合戦。

    本メモ執筆時点では、ハリス支持率は微減しており、トランプ支持率は微増。増えないハリス支持率VS減らない、むしろ、若干なりとも増加傾向のトランプ支持率ということにでもなろうか…。

    つまり、譬えれば、ハリス支持は崩れやすい砂の城・トランプ支持は粘着力ある粘土の城。

    NYT世論調査に観る、10月に入ってからの両候補への支持率変化は以下の通り(瞬間的に風向きが僅かに変わる; 微風はハリスに逆風、トランプに追い風)。

    発表調査比較表(10月7日→10月20日)
    ハリス支持率 トランプ支持率
    全米(538) 49%→49% 47%→48%
    激戦中西部3州(44)
    Pa(19) 49%→48% 48%→48%
    Mich(15) 49%→48% 48%→48%
    Wis(10) 50%→49% 48%→48%
    激戦サンベルト4州(49)
    NC(16) 48%→48% 49%→49%
    Nev (6) 50%→49% 48%→48%
    Ga(16) 48%→48% 49%→49%
    Ariz(11) 47%→48% 49%→49%

    ※()内は、各州に割り当てられている選挙人数。

  2. 双方共に、激戦州の世論調査に一喜一憂一する風見鶏と化している。大衆迎合の度合いが増す一方、その都度に小刻みに打ち出す弥縫的具体策からなる選挙ノミクス経済政策(チップ非課税、残業代課税廃止、商品価格にキャップ、初めて家を買う人への支援等々)。それぞれに異なる立場からのポピュリズム。それらは生活感の漂う提案に収斂気味。
  3. 10月22日現在、接戦7州の全てでEarly Voting 実施中。加えて、早期投票制度に従って、既に投票した有権者も多い。両者合して、その数は数百万にも及ぶとか…。現状、事前投票ベースでは、どちらの候補者に有利とは判断できない状況。

    Early Votingに絞れば、中西部3州では民主党員の投票が多かった(逆に言えば、投票日当日には共和党票が多くなる可能性大)。対して、サンベルト4州では、民主党員・共和党員の比率はほぼ互角。

  4. 現時点になっても、どちらが勝つか分からない、僅差の選挙情勢。選挙候補者の優劣を賭けにする市場(Polymarket)では、直近2週間で、トランプ勝利へ賭ける人が急増(50%→60%:後述のイーロン・マスク現象か?)。

    但し、同じ賭け市場でも、専門家同士の意見交換的色彩の強い賭け市場(Metaculus)では、ハリス・トランプは依然50対50(それでも、2週間前はハリス55対トランプ45だったのと比べると、ハリス勝利と見る向きが、短期間に、それだけ減ったということになる)。

  5. ジェンダー・テーマが選挙戦の潜在的な争点。「ハリスは女性の視点で…、トランプは男性の視点で…、それぞれ政策を打ち出している」との有権者の一般イメージ(Pew Research Center調査)。

    この7月~9月に激戦州で有権者登録をした若手女性(29歳以下)に限れば、民主党支持者が41%、共和党支持者が18%。対して、同じ年齢層の男性有権者登録で観ると、民主党支持者が28%、共和党支持者が27%。

    ここに見られる現象は、中絶問題に触発された若手女性のハリス支持と、“男らしさ”を求める一部若手男性のトランプ支持(=従来、この層は民主党支持、それが今回は…)。

  6. NYT調査では亦、ハリス支持のヒスパニック票が伸びていない様をも浮き彫りになっている(ヒスパニック票の行方を観ると、2016年選挙では民主党候補に68%、共和党候補に28%→2020年選挙では民主62%、共和36%→2024年選挙では、世論調査ベースではあるが、民主56%、共和37%)。

    しかし、ヒスパニック票の4分の1程度は現状でも態度未定、もしくは支持の度合いが弱いpersuadable有権者の段階に留まっている。彼らを、最終的にどちらの候補者が取り込むかが、一つの勝負処。

    彼らは、意外なことに不法移民に対しては厳しい眼を持っており(後から来た不法移民に、先住のヒスパニックが職を奪われるのではないかとの不安や警戒心故)、トランプはこの層向けに、不法移民に対する強硬姿勢を依然説き続けている(恐らくは、考え抜かれた選挙戦術としてではなく、トランプ流本能の発露として…)。

  7. 米国社会には不安意識が蔓延している。「米国経済が力強く回復しているにもかかわらず、多くの人が賢明に働いても生活が思うに任せず、安心感や社会との繋がりが得られていない」と感じている。

    加えて、めまぐるしい技術革新が人々に「追い立てられ感覚」を生じさせている(FT 27th May, 2024)。

    そうした不安感は、対外面にも関しても同じ。「米国は脅威に直面している」との危機意識が社会の基底に滞留している。(Commission on National Defense Strategyの報告に依れば、【A Failure to remain ahead of China, US manufacturing sector that isn’t strong enough to produce what the military needs. Polarized political atmosphere that undermines national unity等々の感情が社会で共有されているとのこと】)。

  8. “中国”を名指しするかしないかにかかわらず、ハリス・トランプ両候補の基本心理は、中国の追い上げに危機感を覚え、“米国第一”に傾斜する点で共通。違いは、対応手段面(同盟VS単独行動で相手との交渉に持ち込む)。

    尤も、ハリスは中国を名指しで批判はしていない。声高に中国批判を繰り返すトランプと好対照。ハリスは、対中強硬はバイデン大統領の役割(バイデン・ハリスの役割分担)と割り切っている模様。

  9. 内政では、ハリスはトランプの姿勢を「過去追憶的」、自らの姿勢を「未来指向的」と決めつけているが、対外面ではむしろ逆になっている(ハリスの同盟国との協調の姿勢は、過去の冷戦思考の反映。

    対して、トランプの交渉中心思考【新しい均衡を求めて、如何なる相手とでも交渉する】は新しいスタイル)。

  10. 分断社会化を前提に、トランプがその分断を選挙に利用している側面が濃厚。
  11. 2年毎に、定員100名の3分の1ずつ改選される仕組みの上院選では、今回は民主党の改選議席数が圧倒的に多い(民主23人、共和11人)。

    だから、民主党には不利だと観られているが、但し、ここにきて、トランプが盛り返し始めているとの印象故か、各州の上院選挙では、有権者の間にSprit-Ticket的行動に走る向きも見え始めた。

    つまり、大統領選挙では、例えばトランプに票を入れても、有権者の心にバランスを取る心理が働いて、上院選では、民主党候補に投票する等々。こうした有権者心理が、民主党上院議員候補にどう有利に作用するのかも見所の一つ。

    一方、全議席改選の下院では、民主党が過半を制するのではないか、との見通しが有力視されている。

  12. 以上を総合して、情報リスク管理を本務とするコンサル会社ユーラシア・グループは以下のように予測する(全ての可能性を100と仮定すると…)。

    ***トランプ勝利の確率55%。ハリス勝利の確率45%。トランプ勝利の下での55%の内訳は、議会両院を共和党が確保する確率が31%。議会両院で優勢な政党が異なる確率24%だとのこと…。

    ***ハリス勝利の確率は45%だそうだが、それが実現した暁に、民主党が両院を支配する確率は14%、対して、民主党が一方の院(恐らくは下院)を制する確率が31%との見通しだとのこと。

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