投票日まで2週間、米国大統領選挙の現状は…(3/5)
建国の父達の苦労(独立13州の利害調整)にルーツ。大統領は全国ベースで選ばれる唯一のポスト(連邦上院は各州代表→州の大小を問わず各州2名、計100名。
連邦下院は人民代表→米国全体の人口に占める、当該州の人口の割合を、全下院議席435に振り分ける。人口の各州間移動による変化は、10年ごとの人口センサスで調整 )。
大統領選挙は、謂わば、選挙人の獲得合戦。上下両院議員合計数相当の535人に、首都ワシントンに割り当てた3人の合計、つまり538人の選挙人(Electoral college)を奪い合う戦い。合否ラインの過半数は270。
現職の連邦議員は選挙人にはなれない。要するに、州毎に一般有権者投票で、当該州割り当ての選挙人の数を奪い合う。
当該州で勝った大統領候補が、当該州に割り当てられた選挙人を総取りする(Winner Take All方式;例外はネブラスカ州とメイン州、当該州に割り当てられた選挙人の数を、当該州内下院議員選挙区毎に割り振り、当該選挙区毎の投票で、どの党の候補がその割り当て選挙人を獲得するかを決める:現状の世論調査を元に推計すると、現状ではネブラスカ:共和4,民主1,メイン:共和1,民主3)
この選挙人獲得合戦で、538票の過半数、つまり270票を取った方が勝ち。
現時点で、全米50州中、基礎票に於いて民主党が多い州(ブルー州)、共和党が多い州(レッド州)はほぼ決まっているので、残された前記激戦7州が文字通りの勝負州。
CNNが10月7日(少し古いが)に予測した両候補の選挙人確保数は、ハリス226人(後44人必要)、トランプ219人(後51人必要)。残り必要数を激戦7州で、どちらが勝ち取るか…。
***念のため、激戦7州に割り当てられている選挙人の数を再度列挙すれば…。
ミシガン15,ウイスコンシン10,ペンシルバニア19(合計44)
ネバダ6,アリゾナ11,ジョージア16,ノースカロライナ16(合計49)
ハリスが中西部3州で全勝すれば、270名に達し当選。大接戦のPAで負けても、NCとNVで勝てば、トランプに勝てる計算になる。
この結果には、上記ネブラスカとメインでの、民主党の選挙人獲得が大きく効いている、とりわけレッド州ネブラスカでの1人が…(共和党サイドからは、ネブラスカ州でWinner Take all制度に、選挙人選出ルールを切り替えようという動きも…。州知事は、そのための州議会開催を拒否)。
NPR(National Public Radio)が10月16日に報道した両候補の選挙人獲得数は、ハリス226人で、10月7日のCNNと変わらず。
しかし、トランプ側の獲得数は246人(CNN219+27人)。これはCNNでは接戦州と数えられていたアリゾナ(11)とジョージア(16)がトランプ側に傾いている、との判断が加わっているため。
こうしたハリスの伸び悩みを改めてみると、ハリスにとって、副大統領候補にPAの人気知事(余りにイスラエルより…)を選ばずに、ミネソタのウオーリズ知事を選んだのは正しかったのか疑問が出てくるはず…。
この疑問への答えは、サンベルト諸州で、ウオーリズ副大統領候補の力で、ハリスが選挙人をどの程度獲得できるか否かにかかっているのだが…。(前述のように、不法移民への不満がこれらの州に大きい:バイデンの不法移民受け入れ政策などのためで、ヒスパニック系の一部が不法移民に強硬姿勢に転じているため…。ハリスには想定以上に厳しい現実)。
ハリスは本当に中西部三州を制することが出来るか?
州内に20万人のアラブ系中東移民、バイデンの対イスラエル政策の余波がすぐにハリスに及ぶ構造あり。
撤退したロバート・ケネディーへの支持が一定程度あった州、2024年共和党大会が開催された州、直前に狙撃されたトランプが「この州で勝てれば、全てで勝てる」と主張したことも…
両陣営が最も力を入れて選挙運動を実施中、食品物価を筆頭 に、経済が最大の争点、人気のある同州知事(明白なイスラエル系)の副大統領候補登用を避けたハリスのメリット・デメリットは?
トランプは、サンベルト4州を制することが出来るか?
過去数回の大統領選挙ではいずれも民主党候補に投票。しかし、同州の失業率はカリフォルニアや首都ワシントンに次いで高い。バイデンが候補だったときには、トランプがかなりの差を以て優勢だったが、ハリスになってからは僅差。直近の世論調査では、ハリス優勢を示唆するもの(NYT 系)とトランプ優位を示唆するもの(WSJ系)が併存。両候補の不法移民対策への姿勢の差が、有権者の投票行動にどう違いとなって表れるか、ヒスパニック系の民主党離れどう響くか…
2020年選挙では僅差で民主党バイデンを支持。同州選出の故マケインがトランプと不仲だった事実も背景に…。同州で160年も続いた中絶禁止州法廃止を巡っての、州共和党と州民主党の対立故に、人工中絶問題への関心、とりわけ女性の関心が大(ハリスに有利な材料)。しかし、一部ではトランプ傾斜との世論調査結果も(前述)…。
同州で第三番目に大きい有権者層はアフリカ系黒人。2020年選挙ではバイデンを支持、しかし、彼らのバイデン政権への不満も多く、バイデンが候補者だったときには、黒人層のかなりがバイデン離れを起こしていたが、ハリスに代わってからは、再度、民主党候補支持への傾向も見え始めている。更に、同州のフルトン・カウンティの検察官が、トランプを起訴、判決は裁判前には出ないだろうが、この起訴が選挙にどう響くか?
2020年の大統領選挙では、トランプが7万票の差でバイデンを降した。最近まではトランプ優位だったが、直近では、ハリスの追い上げが目立つ。民主党関係者は、この州では、ハリスは勝てる可能性があると判断している模様。但し、最直近では、トランプの盛り返しの傾向も…。
※上記⑪、⑫はいずれもBBC情報より。両陣営とも、重点的に、これら7州に広告費を投入(広告資金は、民主党が圧倒)亦、ハリス・民主党陣営は、草の根組織での優位性を最大限発揮して、重点爆撃的な戸別訪問を実施中。
対して、トランプ・共和党陣営は、草の根組織の劣位をカバーするため、個別有権者向けのチラシ郵送戦術を展開中。
更に、ハリス・民主党系はテレビ広告も大量放映、トランプ・共和党系はネット広告重視。働きかけ対象はいずれも態度未定の有権者(当該州の有権者の約5%程度)。
トランプ陣営は更に、従来選挙での投票棄権者達(当該州有権者の約4%程度)にも働きかけを強化。この5%+4%の部分に、イーロン・マスクが、トランプのために助太刀を買って出ている(後述)。
要は、両陣営とも、態度決定が緩い、或は態度未定の有権者(当該州の約5%)と放っておけば棄権する有権者(4%)、併せて10%弱(NYT 5th October)をどうすれば自陣営候補者に投票させ得るか、に勝負を賭けている(Our No.1 priority should be turning out folks that sometimes are deciding whether to show up or not on the Election Day, and that’s going to be a really deciding element to the Election Day;【Rep Alexandria Ocasio-Cortez NY選出民主党下院議員 】:NYT 5th October)
こうした思惑が、直近の両候補の主張が経済政策に偏り始め、或は保護主義に傾き、専ら生活困窮者向けの救済的色彩の高い政策強調に繋がっている原因(対中輸入規制強化、チップ免税、残業代非課税化、食品価格上昇にキャップ、住宅購入補助等々)
この点で注目されるのは上記の各所で指摘しておいた、イーロン・マスクの動き:彼のPolitical Action Committeeが最近、有権者一般を対象に、修正憲法第1条、第2条を支持する請願書への署名人熱めへの協力依頼を、ネットを通じて行い始めた。曰く「言論の自由と武器保有の自由を守れ」と…。請願に署名してくれる有権者を一人見つければ、「その発見者に47ドル支払う」と…。
そこには、そうした有権者発見に協力してくれる人は、容易にトランプ支持者になってくれる、との前提がある。そして、当該協力者に、全く別個に、トランプ陣営が積極的にアプローチする仕組みらしい。47ドルという数字は、トランプに第47大統領になって欲しいとの願いを込めた数字だとか…。
憲法の条項遵守のための請願で、その潜在署名人を探した人への報酬は、選挙には何にも関係がないとの理屈らしい…。請願人への報酬ではなく、請願候補者を探した人への報酬というのがミソ…(こうした直近の動きが、前述の賭け市場でのトランプに賭ける層を増やしているのではとの一部解説)。
イーロン・マスクは亦、トランプのために有権者宅を戸別訪問してくれる草の根ボランティアに時給30ドルを出す案を検討中だとか…。草の根組織機能の面で劣るトランプ陣営への肩入れ。これら諸活動は、専ら激戦7州の有権者が対象。狙いは真に見え見え…(NYT 7th of October)。
イーロン・マスクの発言「トランプ支持者を着実に増やす方法は広告ではない。先ず2人の支持者を説得、その2人の一人一人に、それぞれ別の2人の支持者を説得させる」…、つまり頼母子講的な地道な支持者の拡大こそが一番実効的(ネット世界の実力者の極めて皮肉な発言)。
イーロン・マスクは何故、トランプを支持し始めたのか…(後継参考参照のこと)
しかし、激戦サンベルト3州の態度未定有権者の最大関心は…、トランプに関しては、人格35%>誠実さ8%>性差別感や人種差別感7%>民主主義への脅威7%>職務遂行能力5%>イデオロギー5%>法的訴訟3%等々。
ハリスの関しては、人格17%>イデオロギー(リベラル)15%>経済政策13%>信頼感10%>経験不足10%等々
要は、トランプは、差別感等を含んだ広い意味での個人的人格が、一方、ハリスは、リベラル思想や現政権の取っている経済政策への嫌悪感などの全てを肩に背負わされている…。
そうした受け止め方の分裂には、前述のようなジェンダー観が(男らしさとは何か、女らしさとは何か;女性候補者が自ら、女性を強調するのを嫌う風潮も…男性一般並びに高齢女性すらも、そうした女性候補を嫌っている、との世論調査結果)。ハリスも自らを女性だとは強調していない(嘗てのヒラリー・クリントンの失敗の轍を踏まない様に…)。
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