鷲尾レポート

  • 2024.10.25

投票日まで2週間、米国大統領選挙の現状は…(5/5)

バイデン、ハリス、トランプの仕事観・世界観

バイデン

最も外交経験豊富な大統領(長年の上院外交委員長経験等々)。冷戦の最中に育ち、それが世界観に反映されている。

ケネディー政権下の米国で、若者として育ち、民主主義を以て最高の統治原理だと信じている。

国際関係は民主主義国と強権国家との間の二項対立であり、米国は常に理念の灯台であるべき…。

ハリス

育ったのはポスト冷戦期。米国一強の時代を経て、自国の理想を達成する困難さを自覚し始めた時代に、検察官という職業を選んだ。

法律家という立場から、政治制度や元首の性格で相手国を判断するのではなく、あくまでも事例に即して、法の支配が通用しているかどうか、その観点で、当該関係を判断する傾向がある。

トランプ

バイデンと同年配だが、全く違う価値観。「私は取引そのものに魅力を感じる。私にとって取引こそ芸術だ…取引は大きければ大きいほどよい…。

取引に際し、強硬な態度を取ると、それなりの効果があるものだ…。評論家は、私の仕事について言いたいことを言う、それなら私も、彼らの仕事について言いたいことを言っても良いはずではないか…。

私のやり方は単純明快だ、狙いを高く定め、求めるものを手に入れるまで、押しまくる…。選択の余地は大きくしておかねばならない…。取引で禁物なのは、何が何でも手に入れたいという素振りを示すこと、相手に目的を察知されてはならない…。

良くしてくれた人にはこちらも良くする…。けれども不当な扱いを受けたら、こちらも徹底的に戦う…。

大事な取引をするときには、トップを相手にしなければらちがあかない…。仕事をする上で、人を余り信揺するな…。ベストを尽くし、もし上手く行かなければ、次の目標に移れば良い…」(トランプ自伝からの抜粋)

***米国で観られる、バイデン・ハリス間、トランプ・ハリス間の価値観段差は、実は日本の衆議院選挙でも観られるのではなかろうか…・。

若い候補者ばかりの選挙区、政策の実績を問うのではなく未だそこにない理想の違いだけを争点にする等々。

ひょっとして、今回の石破対野田の選挙戦は、団塊世代の価値観を持つ者同士の最後の選挙戦になるような予感→近い将来、戦前教育の影響を全く受けない世代が主流となって、日本社会の価値観の大転換が起こる→人口7000万人台の日本の姿はどうなって行くのか…。

新たな地政学世界

  1. 「バルト海のStettinから地中海のTriesteまで…鉄のカーテン」(チャーチル)VS「東経35~36度線に沿った欧州とユーラシアを隔てる政治活断層」。
  2. 日本からみて、西はウクライナと中東、東は日本海・オホーツク海・南シナ海に沿ったロシア・北朝鮮・中国の脅威。
  3. ユーラシアのランドパワーへの、太平洋側シーパワー連合?(日本・韓国・台湾→オーストラリア・ニュージ-ランドを含めた中国への対抗網、太平洋諸島諸国を巡っては、中国⇔米国・日本・オーストラリアの対抗陣取り合戦激化)
  4. 石破総理の「アジア版NATO構想」も、それが実現するかどうかは別にして、こんな地政学的な現実危機認識故だろう
  5. しかし、インドやASEANは、その攻囲網には敢えて加わらない模様?…。

    「バイデンの米国は、中国との関係を対立ではなく、競争の範囲に留めようとしている。特に昨今、中東やウクライナでの状況悪化によって、中国にはむしろ懐柔姿勢で臨み始めている…。そんな中、中国の懐柔と日米豪印の枠組みであるクアッドの強化は両立し得ない」(存亡の危機にあるクアッド;インド政策研究センター・チェラーニ教授:日経2024年10月5日)

  6. “もしトラ”の場合を想定して、ウクライナ、台湾、韓国、そして日本もそれぞれに手当てを急いでいる…。

    ウクライナ(トランプに、自国の不利な状態のまま停戦を強いられてしまうことを恐れ、ロシア領内への攻撃を激化させ、ミサイルなどを撃ち込む戦術に転換:第3次世界大戦を引き起こしかねないと、バイデン大統領が抵抗?)。

    G-7で、ロシアの凍結資産の利子を、欧米諸国のウクライナ支援に絡めて、ウクライナの返済資金に使うと言った決定なども、“もしトラ”に備えた事前措置の様な予感…。

    台湾(台湾賴政権)

    「台湾と中国は不可分の領土だとする“一つの中国原則”に、台湾が異論を唱え始めた…中国への強硬姿勢を標榜し始めた欧州の同調・米国の理解⇔中国の苛立ち。こうした台湾の動きも、“もしトラ”への備えの色彩が濃いように思われる。台湾近辺での中国軍の大規模な演習再開→中国海軍の日本領海近辺徘徊・侵犯、中国やロシアの空軍の日本領空侵犯。

    韓国

    早々と、米軍駐留経費増額で合意、北朝鮮が最近、韓国敵視の姿勢を強めているのも、中ロをバックに、米国の新政権誕生を視野に入れた措置ではないのか…。

    日本

    そうした眼で見れば、日本も、日米両軍の統合運用に道を開いている。それでもトランプが日本の更なる防衛費増強を求め、或は、極端な場合、自力防衛力強化の一環として、“核を保有せよ”などと言い始める可能性も…。

  7. 中国共産党は、予測の難しい米大統領選挙にどう対応しようとしているのか…

    トランプは、ハリスとの討論会後の数々の大衆集会で、40回以上も中国を批判している…。「中国は、一種の経済的略奪者」(economic Predator)。Trump talked about the new tariffs he plans to impose on imports from Chinese companies… He has said he wants to prevent Chinese-made cars from being sold because he believes they will destroy the American auto industry. He has also warned China not to attempt to replace the US dollars as the world’s reserve currency. And he has blamed the Chinese government for the Covid pandemic. Meanwhile BBC finds Harris did not mention China at all in her six rallies since the 10th of September debate ( BBC)27th September 2024)

    「中国共産党は、トランプとハリス、双方共が、中国の経済成長と影響力拡大を阻止したいと思っていると認識。両候補の違いは、そのためにどのような政治的・経済的力を使うかの違いだけだ…。

    尤も、中国はトランプが返り咲けば、貿易戦争が深刻化しそうだとはみているが、中国の側から自ら率先して貿易戦争を仕掛ける気はなさそう……経済対立の面で、中国が抱く最大の懸念は、トランプが中国向けの恒久的な最恵国待遇を取り消すかもしれないこと。

    万が一そうなれば、中国は、今後も恒久的に、将来の米政権も対中強硬策を維持するだろうと判断、強気の安全保障策をとるようになるはず。

    そんなことにでもなれば、台湾に対する外交上の威圧行為を停止するよう、米国として中国に対応する術がなくなる。今回の台湾新総統の、一つの中国原則を否定するような方針は、米中対立を、一気にそのレベルまで持って行ってしまうかもしれない…。中国が台湾向けの姿勢を一層強めれば、米国次期政権が交渉にまで降りてくるかどうか、そういう眼で事態の進展を観ているとも考えられる」(ユーラシア・グループのイアン・ブレマー社長)。

***「イーロン・マスクは、7月に米大統領選挙でトランプ支持を表明、8月12日には自分が所有するSNSのXでトランプと友好的な対話を行った(さらに前述のように、トランプの選挙を具体的に助け始めた)…宇宙企業スペースXや同社の衛星通信サービス(スターリンク)、電気自動車テスラを統括する彼…、2023年9月になると、それまで供与していたウクライナ向けスターリンクのサービスに制限を加え始めた。ウクライナ軍がクリミアにいるロシア軍を攻撃するのを阻止するためだ…。

そんなことをすれば、第3次世界大戦になるからとの理由で…。マスクとバイデン米政権との対立も激しくなった。テスラは2019年に上海に大規模な工場を開設したが、それはバイデン政権の国内でEVを発展させるという方針に反していた。

テスラの上海工場は、今や同社の世界生産の半数をになうまでになっている…」(FT 2nd of September, 2024)。

数多くの規定要因

米国内での選挙後の政情の安定【選挙無効訴訟、議会の勢力構図、選挙に際し、どの有権者層に報いる政策を取らねばならないか、新政権のスタッフ体制造りが円滑に進むか等々】)。

日本の総選挙【その後の政情の安定度】、新しい日米首脳の親密度。
米国経済の状況、為替、日本の金融政策。
台湾危機の深刻度等々。

国際情勢の進展(ウクライナや中東、台湾:直近、米国はイランからのイスラエルへのミサイル攻撃を想定し、迎撃用のミサイル防衛システムをイスラエルに供与・人員併せて100名の兵士もイスラエルに派遣…)、いずれにせよ、能動的に動くのは先ず米国だろう。

米国での社会分断現象が、日本にも波及してくる可能性

岸田政権の金融投資立国・製造分野・サービス分野での技術立国化推進、急速に進むサービス・金融経済化、それら新システムを使いこなす若者層対高齢層、世代交代と価値観の断絶、新NISAの普及、所得格差が株式保有の有無で資産格差化する可能性…。

状況はまるで2000年代初頭の米国の様…、レーガンの金融サービス経済化が定着した頃に打ち出された、クリントンの年金制度改革(年金制度に株式投資を取り入れ)、その後のブッシュのOwnership Society 政策→大幅な企業減税…、海外に資金を逃避させる日本人金持ち達…。

日本にも分断社会が来るのか…。転ばぬ先にこそ政策を打たねばならないのではないか…、しかし日本では…。尤も、日本の税制は米国に比べ未だ累進性を維持しているし、何よりも相続税がある。この2点がある限り、米国のような限度のない、無制限にも近い所得格差は生まれないのでは、との意見も日本国内にはあるが…。

しかし、日本の所得格差が、本当にそれで所得格にまで拡がらないかどうか。個人的には極めて疑問…。そういえば、石破さんも当初、金融所得に課税を等と言っていたが…。

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