日時 | 2024年6月26日(水)14:30~16:30 |
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場所 |
りそなプライベートサロンReラグゼ 大阪府大阪市北区角田町8-1(大阪梅田ツインタワーズ・ノース24階) |
講師 | 住友商事グローバルリサーチ株式会社経済部チーフエコノミスト 本間 隆行様 |
テーマ | 日本経済の再生は本当に実現するのか?懸念材料は? |
鷲尾所感
2024年6月26日の、標記会合での本間さんのプレゼン、並びに、その後の質疑、如何でしたか。そもそも今回のテーマは、「日本経済の再生には、単に目標を掲げるだけに留まらず、実際に実行し、具体的成果を挙げることが何より大切」、そんな問題意識をベースに、セットされたもの。本間さんは、この問題意識を忠実にトレースして下さいました。
彼は冒頭、「1961年のベルリンの壁建設で東西冷戦が始まり、その28年後の1989年、今度はベルリンの壁が崩壊し、それが端緒となってグローバリゼーションが始まった。しかし更に28年後の2017年、不法移民流入阻止のための長いフェンスが米墨間に、トランプ大統領によって、建設された。その壁は、グローバリゼーションの退潮が明らかになった象徴であり、主要国の政治経済が内向き指向を強めている結果でもある・・・。つまり、歴史は轍を踏むものだ、と本間さんは指摘されたのでした。
そんな状況下、日本経済は成長経路に踏み込めるか、或は、デフレ基調に戻ってしまうのか、もし前者だとしたら、それには①「所得増→企業収益増→財政状態の改善メカニズムが明確化されたとき、②電化・循環経済が確立されたとき(2050年カーボンニュートラル目標達成等)、③人口減少→市場縮小を阻止するための、人口移動へのフレキシブルな対応が可能になったとき(低出生率対策や外国人労働者の積極的受け入れなど)、④国家・民族間の対立精鋭化の緩和がなされたとき(サプライチェーンや金融等、技術保護主義などに見られる、様々な分野での、施策が成功を収めたとき)等々。逆に言えば、①~④が、失敗に終わったとき、日本経済再生の目論見も頓阿する可能性が高くなると・・・。
現状、明るい兆しばかりだとは決して言えないようです。実質賃金の低下によって、実質消費は減退している。国内自動車市場などでは、不正問題やリコール問題が発生、生産側での不安定な推移が続く。二極化が伺える国内個人消費・・・。更には、設備投資は、国内でもAIやDX導入に触発される形で増勢にあるが、しかし、海外子会社を通じての海外でも投資にも勢いがあって、逆に言えば、日本企業の投資は、一部分野を除いて、国内よりは海外で勢いを増す傾向も見受けられる。
要は、一昔前のような、輸出と投資の2本立てでの高成長は、国内産業体質の変貌や国際市場環境の制約などで、機能しなくなってしまっており、他方、ICT絡みの外資系企業の寡占にも比すべき状況下、国内での情報化が進めば進むほど、大本を握るマイクロソフトやX等、欧米大手IT企業のサービスへの依存が深まり、結果、サービス貿易収支の赤字化が大きな問題として浮上してきている。
更に亦、国内の情報系産業の立地も、活発な九州や西日本が目立ち、大阪や東北裏日本での立地の少なさが目立つようになりつつあり、そうだとすると、万博の地域経済浮揚効果の大小にも依るが、関西経済が一層地盤低下することにもなりかねない等々。
こんな指摘や議論を聞いていると、もう40年も前に米国で聞いた指摘をフッと思い出しました。当時、レーガン政権下で米国経済が不況に悩んでおり、そんな中で、ヒューレッド・パッカード社の会長が座長を務めた、米国産業競争力委員会の報告が公表された。その結論中の一節に「一国全体の産業競争力と企業の競争力とは全く違う」との行がありました。
今回思ったのは、やはり国としての産業競争力と企業としての競争力は、別々に考えるべきだと言うこと・・・。そして今、日本では、国としての産業競争力を考える議論が横行し、その脈絡でAIや半導体、環境問題やエネルギー問題が議論されているが、企業としての国際競争力の方は、果してどのくらい真摯に議論されているか、その全体層が未だ見えず、そうした産業競争力と企業競争力の違いも、どこかで二律背反性の矛盾が露呈してしまうのではないか懸念される云々・・・。
この脈絡で言うと、本間さんのプレゼンが多方面を網羅するものだったため、逆に、国としての産業競争力と企業としての競争力との違いを、議論上、余り意識しなかったように、主宰者としては反省もしています。
今回の会合には、関西学院大学国際学部の学生達数名も参加、関西アジア倶楽部会員に混じって、本間さんに積極的に質問を投げかけてくれました。そんな質問には、「為替の関係だろうが、国内で正社員として働くよりも、海外でアルバイトした方が、給料が高い、そんな状態で、果して若者達の国内就活が進むのだろうか」とか、そうした若者の感想に対し、「仕事には、自分の人生感が絡む。亦、志や社会貢献意識なども絡むはずで。単なる給与レベルだけでは議論しきれない」など、高齢者側の反論も出て、結構面白い議論が展開されました。
猶、このテーマ、「日本経済の再生」に関しては、今後も折に触れ、議論のテーマとして取り上げて行くつもりですので、会員会友の皆様も、その節はこぞって議論に参加して下さるようお願いします。
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