日時 | 2024年8月2日(金)14:30~16:30 |
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場所 |
りそなプライベートサロンReラグゼ 大阪府大阪市北区角田町8-1(大阪梅田ツインタワーズ・ノース24階) |
講師 | 慶應義塾大学教授、前日銀政策委員 白井さゆり様 |
テーマ | 世界経済情勢と日本 |
鷲尾所感
8月2日(金曜)の、第72回関西アジア倶楽部、元日銀政策審議委員で慶応大学総合政策学部教授の白井さゆり氏をお招きしての会合、如何でしたか。
適格なタイミングに、適切な講師をお招きして、出席者と議論頂くこと。それが当倶楽部の会合開催方針ですが、その尺度で言えば、今回の会合は大成功だったと自負しております。
日本銀行の政策委員会が開催され、7月31日に、植田日銀総裁がその結論(金利引き上げや国債買い入れの減額など)を記者会見で説明された。その前日の米国では、経済の先行き懸念を強く示すような統計が発表されたばかり。こうした諸条件が絡まって、俱楽部会合の直前、日本の株価が大幅に暴落し、円価が急騰した。
そんなタイミングに、日銀政策委員を経験し、更に現在の日銀が如何に難しい立場に置かれているか熟知している、白井先生の現状説明には、納得できる点が多々ありました。
先生の解説から、現下の日本経済の実態が、「構造的に弱い」という一言に尽きる状況であることが良く分かりました。企業業績は良いけれど、それは結局、円安の恩恵。輸出企業や現地生産企業は、現地での販売価格を引き上げているわけではなく、それ故、本国送金利益の大半は、円安による水ぶくれ。つまり、企業の国際競争力が増した結果ではない。
現状、企業は設備投資を増やしているが、その実質水準は未だ2019年のコロナ禍前を下回ったまま。亦、日本のインフレは現状2.8%。しかし、食料品とエネルギー価格の上昇という、コストプッシュ的値上げが、寄与度で見ると6割を占める。残り3割強がサービス・インフレ。言換えると、2%の物価上昇率実現には、このサービス・インフレこそが重要なのだけれども、現状は、そのレベルは目標水準にほど遠い。つまり、物価と賃金の好循環が未だ実現されていない。
日本経済の現状を観察する際には、対前年度比の成長率と言う尺度で観るのではなく、2019年1-3期以前(コロナ禍前)の水準を100とし、現行がどうなっているか、その変化率で見るべし、とのご指摘、極めて分かり易いものでした。
その尺度で見ると、2023年以降現在まで、日本の実質GDPの水準はずっと100を割ったまま。そして、その原因は、実質投資、実質消費の弱さにある。
だから、植田総裁としては、こんな状況では、本心では、金利を上げたくはなかった。それでは、何故、上げたのか。そこには、円安への恐怖があったから…。過度な円安の継続を割け、コストプッシュの値上げ要素を緩和し、代わりに、真の賃上げによる物価上昇を実現させる。そのためには避けることの出来ない、今回の金利引き上げだった云々。
表面的ニュースなどだけでは余り分からない、統計解析を駆使しての解説で、本当に勉強になりました。
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